家族という病に陥らないための7箇条

前回は「親の死に目には会えなくてもいい」「兄弟姉妹は仲が悪くて当たり前」という話をしました。そもそも親子や家族というものは、面倒でしんどくて、自分の思いどおりにならないものです。そのため、少しでもしんどさを軽減し、自分や家族みんなが快適に暮らしていける道を模索しなければなりません。そこで第六回目の今回は、「家族という病に陥らないための7箇条」をご紹介します。

自分が親になって初めてわかること

 私には、育ての母が2人いる。1人目の育ての母は、私の実母の妹、つまり血縁上は叔母にあたる人だ。私の母はファッションデザイナーで、私を生んですぐフランスに渡り、イブ・サンローランのもとで修業をしたと聞いている。

 帰国後も東京に事務所を抱え、全国を飛び回っていた。そのため私は、同居していた叔母に育ててもらったのだ。

 2人目の育ての母は、家に住み込みで働いていたお手伝いの女性だ。私は彼女のことを「おばあさん」と呼んでいた。おばあさんは、幼い頃から私の身の回りの世話をし、母代わりになって育ててくれた。

 おばあさんは私が30代のとき、末期の胃がんが見つかった。彼女には身寄りがなかったため、私が当時勤務していた病院で引き取り、緩和ケアと看取りをした。育ての母に対して、最後に医者として少しは親孝行ができたかもしれない、と思っている。

 亡くなる前、おばあさんは「私には子どもがいないけど、あなたを育てることができてよかった。子どもを育てたら、死にやすい」と私にいった。

 当時の私はまだ若かったので、おばあさんの言葉の意味がよく理解できなかった。しかし、60歳になり、3人の娘を育て上げて、孫にまで恵まれた今では、その言葉の意味がよくわかる。私自身、「子どもが全員ひとり立ちして、孫の顔も見ることができた。ここまでやったら、あとは死にやすいな」と、しみじみ共感できるのだ。

 なぜ、子どもを育て上げた後は、死にやすいのか。生物の大義は、子孫を残すことである。すべての動植物の生物活動は、子孫を残すために行われている。

 無論、人間も例外ではない。政治・経済・社会活動はもちろん、戦争などの一見、破壊的な行為も、自分たちの子孫の繁栄のためという大義名分のもとに行われてきた。子孫を残し、次の世代に命をつなぐことは、動物である人間にとって本能であり、生きる目的といっていい。

 子どもを一人前に育て上げた後は、この世での自分の仕事をやり遂げた気分になれて、死にやすくなるのではないか。私はそう考えている。

 だから私は、大人として成熟し、自分の親子関係を再構築するためにも、子どもを育てる経験を一度はしておくのがいいと思う。子どもを育てる経験をしないと、いつまでも「親の子ども」という立場から抜け出せない。子育てを経験することで、自分も親になり、親に対する理解も深まる。

 それまで許せないと思っていた、自分の幼少期に受けた親の言動に対しても、親には親なりの理由や事情があったのかもしれない、と思えるようになることも多い。育児を経験することで、親と対等な立場になれるのだ。

 自らも母となることで、毒母の心情にも思いを寄せることができるようになり、母への積年の憎しみが多少は昇華された、という女性もいる。

 もちろん、家族を持つことは、特に女性にとっては大きな負担を強いる。働く母親に対する支援制度が整ってきたとはいえ、出産や育児、親の介護のために仕事やキャリアを犠牲にせざるを得ない女性はいまだに少なくない。

 男性にとっても、家族を持つことは重荷になる。共働き夫婦であっても、世間一般には「外で稼いできて妻子を養うのは夫の役割」という考え方がまだまだ根強い。収入面の不安で、結婚をためらう男性も増えている。

 もっといえば、子どもを産む・産まないの選択は、個人の自由である。欲しくても子どもが産めなかった夫婦や、出産の時期を逃した女性もいるだろう。その点で私は、血縁のある子を育てることにこだわる必要はないと思う。

 ボランティアとして地域の子どもたちの面倒を見るのもいいし、里親制度を利用して、要保護児童(保護者のいない児童や、親の経済的困窮や虐待などのために自宅で暮らせない児童)を自宅に引き取って育てるのも、すばらしい選択だと思う。

 日本では現在、全国で約4万6000人もの要保護児童がいるが、ほとんどが児童養護施設や乳児院などの施設で養育されており、一般家庭の里親の元で暮らす子は、わずか12%しかいない。欧米では里子や養子に対する理解が深く、アメリカやイギリスでは要保護児童の70%以上、オーストラリアでは90%以上が、一般家庭で育てられている。

 日本では現在、不妊に悩む夫婦が6組に1組にものぼるというが、里子や養子を迎えて育てるなど、育児には出産以外の選択肢もあることを、ぜひ知ってほしい。

 逆に、未婚の人たちは、こんな本を読んでいると家族にほとほと嫌気がさして、「自分のためだけに生きていきたい」と考えるかもしれない。結婚をせずに、あるいは結婚しても子どもを持たずに生きるのも、1つの選択肢ではある。

 しかし、家族を持たない生き方をけっして否定するわけではないが、自己実現だけでは人は満足できないのではないか。

 人生には、誰かのために生きるという側面も必要だと思う。子どもを育てることは、自分の存在意義の確認につながるだろう。そして、親への恨みが昇華される可能性をも秘めている。

「家族という病」を一生患うのも悪くない

 本書でくり返し述べてきたとおり、そもそも家族というものは、面倒で、しんどくて、自分の思いどおりにならないものである。

 親は自分の思いをわかってくれないし、子どもにも自分の思いは伝わらない。家族のために精一杯尽くしたつもりでも、家族にとっては迷惑千万、余計なお世話ということもある。そのうえ、年を取ったら取ったで、子どもから「早く死んでくれればいいのに」と疎まれる。

 しかし、それでも私は、自分の家族を持ち、自ら進んで「家族という病」に罹ることを、すべての人にお勧めしたい。

 親の子として生まれて、大人になって子どもを育てて自らも親になり、老いた親の死を見送る。そうやって「家族という病」を一生患い、そのフルコースを体験することで初めてわかることも多い。

 私自身もまだ道半ばで、家族という病の全容を体験したわけではないが、ときにわずらわしさを感じながらも、少しでもしんどさを軽減し、自分や家族みんなが快適に暮らしていける道を模索しながら、この病と一生つきあっていこうと思っている。

 読者の皆さんに重ねて強調しておきたいのは、「人は変わるものだし、自分の考え方や行動次第で人間関係に変化は起こせる」ということだ。

 親や家族との関係も例外ではない。なにかのきっかけで、親に対する自分の見方が変わり、殺したいほど憎んでいた感情が薄れるかもしれない。親のほうも年老いて、次第に態度が軟化しうるかもしれない。実際に患者さんでも、そのような例を私は数多く見てきた。

 最も避けたいのは、なにもせずに親への憎悪だけを増幅させていくことだ。

 本書では、親や家族との関係に苦しむ人に向けて、「こう考えれば楽になる」というヒントや、自分がしんどくならない家族とのつきあい方のコツを述べてきた。あなたが今できることから、ぜひ行動に移してほしい。

 親は選べないけれど、自分の人生は自分で選べる。過去は変えられないが、未来は今、あなたがどう考えて行動するかによって変わってくる。

 家族は面倒で、しんどくて、自分の思いどおりにならないものであることは、今も昔も変わらない万人共通の真理ではある。しかし、それをなかばあきらめて受け入れつつも、今の状況が少しでもあなたにとって楽なものに変えていけるよう、自分からぜひ行動を起こしてほしい。

家族という病に陥らないための7箇条

 最後に、「家族という病」に陥らないためにはどうすればよいか、私の考えを7箇条にまとめておこう。

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コメント

human_antinatal https://t.co/wNtJrQqFGg 「己の死にやすさ」のために子供を作るとか酷いな。 子孫を残すことが生物の大義など自然主義的誤謬にすぎないし、 つくづく、子作りにまっとうな理由なんか存在しないんだよね。 11ヶ月前 replyretweetfavorite

totokarcho このタイトルで「「 約4年前 replyretweetfavorite

yuzumeets_an 最近ぼんやり考えてることも出てきて、やはりそういう考え方もあるのかなあ、と |石蔵文信 https://t.co/62Vze9YebR 約4年前 replyretweetfavorite

restart20141201 なんだかお節介。 不快でも面倒でも、 家族を持った方が「いい」、 と価値観をマウントしてくる文章。 約4年前 replyretweetfavorite