プリティ・ガールズ

ポールの資産

クレアの家に訪れたのはFBIの捜査官だった。捜査官の口から告げられたのはポールの新たな罪状で……頭が真っ白になっているクレアに、姉のリディアがそっと寄り添う。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

 リディアの声はまだ裏返っておびえていた。「いま寝てるんです」

「あなたのうしろに立っているのではありませんか?」ノーランはドアに手をかけて、リディアが開けないと転びそうになるまで押しつづけた。そしてクレアに笑いかける。目のまわりの痣は黄色に変わりはじめていた。「曇りガラスのおもしろいところはね—ほとんどなにも隠してくれないんですよ」

 リディアが言った。「なんの用?」

「これはずいぶんなご挨拶だ」ノーランはリディアが閉めないようにドアに手をかけたままでいる。夜空を見上げる。ポーチに庇はない。ポールが家の外観を損なうと言ったのだ。「通り雨が来そうだな」

 クレアもリディアも反応しなかった。

「わたしは雨が好きですよ」ノーランは家のなかに足を踏み入れた。奥に視線を走らせる。

「ゆっくり本を読むのに最適じゃないですか? あるいは映画を見るとか。映画はお好きですか?」

 クレアは唾を飲みこもうとした。あの動画のことを言っているのだろうか。メイヒューと話したの? コンピュータを追跡する装置がつけられていたのだろうか。クレアはポールのノートパソコンでWi‐Fiにアクセスしていた。ノーランはずっとこちらの行動を監視していた?

「ミセス・スコット?」

 クレアは浅く息を吸おうとした。逮捕しに来たのかどうか単刀直入に尋ねないように自分を抑えた。

「あのトラックはあなたのですか?」

 リディアは身を硬くした。

 彼は手を差しだした。遠くに伸ばす必要はない。リディアのすぐ近くに立っていて、肘を曲げなければならないほどだ。「まだ紹介されていませんでしたね。FBIのフレッド・ノーラン捜査官です」

 リディアは手を取らなかった。 「保護観察官を呼んでもいいんですよ」再びクレアのほうを見て言った。「連邦捜査官に対してそうと認識しつつ故意に噓をついたり、実質的に欺くことは五年の懲役刑を科せられるということはともかく、あなたは保護観察官の質問を無視することは許されない。保護観察の条件です。黙っている権利はありません」身を乗りだしてクレアの目をじっと見る。「ハイになる権利もない」

 リディアが言った。「わたしはミンディ・パーカー。あのトラックは自動車工場から借りてる代車です。わたしはクレアの友人です」

 ノーランはもう一度しげしげとリディアを見つめた。クレアの友人には見えないからだ。ジーンズはデニムというより合成繊維で、黒いTシャツには裾に漂白したようなしみがあり、グレーのカーディガンは動物が噛んだように端がほつれていた。クレアの友人の家政婦にすら見えなかった。

「ミンディ・パーカー」ノーランはもったいぶった仕草でらせん綴じの手帳とペンを取りだし、リディアの偽名を書きとめた。「信ぜよ、だが確認せよ。レーガンの言葉でしたっけ?」

「なにしに来たんですか?」リディアが問い詰めた。「もうすぐ十二時をまわります。クレアのご主人は亡くなったばかりなんです。そっとしておいてあげてください」

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この連載について

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プリティ・ガールズ

カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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