クレアはふたつ目の箱を調べる気にはならなかった。ひとつ見ただけでぐったり疲れてしまった。なかに入っていたファイルは色分けされていて、インデックスには女性の名前が几帳面に書かれたラベルが貼ってあった。もちろんクレアはリディアのファイルを引き抜いた。箱にはほかに十人以上の女性の名前が書かれた十冊以上のファイルが入っていたが、そのままふたを閉めた。ポールのプライベートなクソは充分に垣間見た。これ以上見る気にはなれなかった。
代わりに、倒れたパーコセットのボトルの横に置いた折りたたみ式携帯電話を開いた。 プリペイド式の携帯電話で、バーナー・フォンと呼ばれているらしい。少なくとも警察もののテレビドラマ『ロー&オーダー』を信じるとすればだが。
リディアの携帯電話番号はポールの報告書に載っていた。クレアはバーナー・フォンか らメールを送った。メッセージはつけず、ただこのダンウッディの自宅の住所だけを書い た。成り行き任せにしたかった。リディアはなにかの引っかけだと思うだろうか。たとえば追放されたナイジェリアの大統領がリディアの銀行口座を調べているというような? それともクレアからだとわかって無視するだろうか。
無視されて当然だった。リディアは男にレイプされそうになったと訴えたのに、クレアの反応はその男を信じることだったのだから。
だが、ただちに返信が来た。“そっちに向かいます”。
強盗事件以来、クレアはゲートにセキュリティをかけていなかった。ひそかに強盗たちが戻ってきて殺してくれないかと願っている。いや、殺されるのはまずい。ヘレンにとって残酷すぎる。瀕死の状態まで叩きのめしてくれればいい。昏睡状態に陥り、一年後に目を覚ましたときドミノ倒しが止まっていればいいのだ。
最初のドミノはこうだ。レイプ映画を見る人が必ずしも実際にレイプをすることに関心を持っているとは言えないというのは簡単だが、その人間に、過去だれかにレイプされそ うになったと告発された実例があったとしたらどうだろう?
二番目のドミノ。ずっと昔になされた告発がほんとうだったら?
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