失敗だらけの初詣

初詣に行く習慣のなかった詩人の文月悠光さん。2016年こそは新しい一歩を踏み出そうと胸に決め、まずははじめての初詣に行くことにしました。地元の札幌市は白石神社に足を向けた文月さん。人の多さに気圧されつつ、参拝の列に並びますが、どうにも「ちっちゃなこと」が気にかかって仕方がありません。さて臆病な詩人は、神さまにどんなお願いごとをするのでしょうか。

 初詣に行ったことがない。

 子どもの頃は、そんな習慣があることも知らなかった。「初詣も知らないの?」。中学生の頃、クラスメイトに呆れられ、その日のうちに母親に尋ねた。

「ねえ、初詣ってなに?」
「わざわざお正月の寒い時期に、神社に出かけていくことよ。北海道の人は、雪もあるし、信仰心もないから、初詣なんか行かないね」

 そうか。初詣に行く人は、寒さを物ともしない、信仰心に篤い人なのか。母親の言葉を信じた私は、毎年初詣に行くこともなく、お餅を食べながら、だらんと三が日を過ごした。


 十八歳の頃、初めての恋人ができた。年が明けた瞬間に、雪をかき分け、除夜の鐘を鳴らしに行く人だった。「去年は四番目だった。今年こそは一番に鳴らしたい」と意気込む彼。唖然とした。こっちは初詣さえ未経験なのに。

 ああ、こういう人とは無理だ—。気圧された私は、大晦日に別れを切り出した。「大晦日に振るなんて、きみは鬼か」と恨まれた。だって除夜の鐘は、紅白の後にぼうっと眺めるものでしょう。あれをわざわざ鳴らしに行くなんて、その執念が怖いよ。

 けれど今年の私は、ある決意を固めて札幌に帰省していた。初詣に行くぞ。連載成功を祈願して、ばっちり一年をスタートさせるぞ。

女友達との初詣デート

 一月二日の夕方。十一年の付き合いになる地元の友人が、白のニットセーターに巻き髪を揺らして、改札口に現れた。
「彼氏もいないのにデート服着てるよ」と、会った瞬間に自虐している。九ヶ月付き合った彼氏に振られたばかりなのだ。

「三十歳まで、出し惜しみするのやめるわ。男に媚びて生きていくわ」とすっかり自暴自棄だ。雪道を歩きつつ、彼女の失恋話に相槌を打つ。

「彼氏がいなくても楽しく生きられるよ! 私だって平気だもん」と励ますつもりで口にすると、「いなくなるのと、元からいないのは全然違うよね」と冷静に正されてしまった。そ、そうか……。

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臆病な詩人、街へ出る。

文月悠光

〈16歳で現代詩手帖賞を受賞〉〈高校3年で中原中也賞最年少受賞〉〈丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞〉。かつて早熟の天才と騒がれた詩人・文月悠光さん。あの華やかな栄冠の日々から、早8年の月日が過ぎました。東京の大学に進学したものの、就職活...もっと読む

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コメント

pivonka_ |文月悠光 @luna_yumi 感性 https://t.co/HABVm7uwHT 1年以上前 replyretweetfavorite

__anemone 色々な気持ちになる 1年以上前 replyretweetfavorite

mschawppesoul 冷静な観察力が感じられる。欠落をちゃんとみつめながらも決して悲観的になりすぎてないのがいいです。その中で前に向かう文月さん、素敵だと思います。2回目の初詣の描写が胸にじんときました。 1年以上前 replyretweetfavorite

jin_tategami 「臆病な詩人、街へ出る。」――「」を読んでから文月さんの詩集をあらためて開くと以前とは違った印象を受ける。次回も楽しみです。 1年以上前 replyretweetfavorite