初めて読んだスリラー小説
—— 『プリティ・ガールズ』は、音花さんが初めて読まれたスリラー小説だったそうですね。
音花ゆり(以下、音花) 率直に言うと、もう、衝撃的すぎて……。正直、本当に、途中で何度も本を閉じかけたりも……。それでも最後まで読んでしまいましたね。
—— たしかに、本書の題材はものすごくシリアス、描写もかなり濃厚で、ちょっとショックを受けるかもしれませんね。
音花 24年前に起きた、ふたりの姉のジュリアの失踪。それに現在進行形で起こっている、少女の誘拐事件も絡んできて……「こんな事件、本当にあるのかな?」と思わず「猟奇レイプ殺人」と検索ワードで入力してしまいました。検索結果を開く勇気はなかったですけれど……(笑)。
—— 著者のカリン・スローターは世界的に評価されている作家ですが、初めてのスリラー小説、音花さんはどう読まれましたか?
音花 ミステリーやサスペンスは読みますが、私の人生で初めて読んだスリラーがこれかっていう! さまざまな登場人物の視点から描かれるじゃないですか。妹のクレア、姉のリディア、父親のサム……いろいろな状況が、その人の人となりや性格によって、全然違ったかたちで描かれている。それによってすごく想像力がかきたてられて、どんどんリアルな想像が膨らんでいくんです。「痛い!」と思うたびに、思わず手を止めてしまいました。その一方で、「この話は一体どこに向かっていくんだろう」と続きが気になる気持ちも生まれるくらい、展開が変わっていく。中毒のようになりましたね。
—— 事件の全容が明らかになるにつれて、どんどん怖くなっていく作品です。
音花 本当にそう。でも、最後にはものすごく爽やかな終わりを迎える。姉妹や家族の絆のお話ですよね。読み終えたときには、クレアとリディアと一緒になって、どっと疲れた気持ちとほっとした気持ちが両方押し寄せて、涙してしまいました。
—— 初スリラー小説ということですが、普段はどんな本を読んでいるんですか?
音花 けっこう幅広く読みますね。妹がすごく読書好きで、妹に勧められる本を読むことが多かったです。ミステリーだったら昔はシャーロック・ホームズはよく読んでました。あとは東野圭吾さんとか。最近は司馬遼太郎さんを読んでいます。
—— 幅広いジャンルを読んでらっしゃるんですね。特に好きなジャンルはありますか?
音花 好きなのは、ファンタジーもの、いわゆる児童文学に近いものですね。『ハリー・ポッター』シリーズは全部読みましたし、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』も大好きです! 家族みんな本が好きだったので、小学校のときからこうした本を読んでいて。青い鳥文庫はすごく読んでました。のめりこんで読んでいるあいだは何を言われても気づかないから、母に「本当に厄介!」と言われてました(笑)。
—— 本書はファンタジーとは正反対の世界ですが、抵抗などは……?
音花 あっ、でも、アメリカのドラマもすごく好きなんです! 『CSI 科学捜査班』、『NCIS ネイビー犯罪捜査班』、『BONES』、『キャッスル ミステリー作家は事件がお好き』『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』とか。
—— おおっ。本書と同じように、猟奇殺人や連続殺人の真相を追う作品ですね!
音花 「日本ではあまりなじみがないですけど、外国ってこういうことが起きているんだな……」と楽しんで見ています。『プリティ・ガールズ』も、そうしたある種の「文化の違い」をおもしろく読みました。でもそれだけじゃなくて、「自分が信じた人に対する見え方が変わった瞬間に景色が変わる」ということは、私にも起こりうることじゃないかなって。いろいろ疑心暗鬼にさせられるところがあって、後半戦は「私自身、どこに行きつくんだろう?」と思いながら読破しました。
家族でもあり、親友でもある「姉妹」という関係
—— 印象に残っているシーンはどこでしょうか。
音花 後半にかけて、リディアを助けるために必死でがんばるクレアの姿は、胸に迫るものがありましたね……! そこで、お母さんのヘレンとの関係性も変わっていくし、リディアの「全てを許そう」という気持ちが、どんどん胸にきて。人間には誰にでも良い面と悪い面があって個性になっていて、それで人間関係が確立されていくと思っています。そのなかでも家族や姉妹というのはお互いをわかりつくしているんだけど、その上でさらにお互いを知っていき、こういうふうになる、相手のために頑張りを見せる、というところに心が揺さぶられましたね。
—— クレアもリディアも、読み進めていくうちに印象が変わってくるキャラクターです。
音花 ふたりとも、すごく魅力的な面を持っていますよね。24年前のジュリアの事件で、ふたりは孤独を感じてすれ違ってしまったり、家族の絆がほどけてしまったり、弱い面がお互いにさらけ出されてしまっていったりで、別れてしまう。そして連絡が途絶えたまま15年が過ぎる……。その弱さも人としてわかるし、自分がそういう立場になったとしたらどうなるんだろう? と考えさせられました。
—— 本作の大きなポイントのひとつは「クレアとリディアの姉妹関係」だと思いますが、音花さん自身、女優の相武紗季さんを妹に持っていらっしゃいます。姉妹の描写で印象に残っているところはありますか?
音花 〈「ほら、ぼやっとしてないで」リディアは引き出しいっぱい分の靴下をベッドに腰掛けたクレアの隣に放りだした。「少しは手伝ってよ」クレアはのろのろとソックスの仕分けをはじめた。こうしていればしびれを切らしたリディアが代わりにやってくれるはずだ。〉
ここです! これって、リディアのほうもたぶんクレアがこう思っていることをわかっている。こういうお互いを誰よりもわかっている感じが、「姉妹だな!」と。姉妹って、家族でもあり、友達でもあり、親友でもあり……という関係ですよね。
—— そういうクレアとリディアの姉妹関係は、音花さんの経験と似ているんでしょうか。
音花 ううん、むしろ逆ですね。姉であるリディアはクレアの面倒を母親代わりに見ているところがあるんですけど、私はけっこう妹に面倒を見てもらうことが多いです。小さい頃は、私の方が物怖じせずに人前に出られるタイプで、妹は私の後ろに隠れて人を観察していたような子どもだったんですけど、大人になってからどんどんしっかりしていって。私は宝塚というある意味家族のような人たちに守られていましたが、妹は17歳でひとりで東京に出てがんばっていましたからね。「あんなに引っ込み思案だったのに~!」と思うこともありますが(笑)、姉妹が逆転しているような感じで、心配して面倒を見てくれています。今でも親友みたいですね。
「クラスメイトだったら友達になってない」と言われてしまった
—— 相武さんのインタビューなどを拝見しても、音花さんとの姉妹愛を感じます。思春期の難しい時期も、仲が良い姉妹だったんでしょうか?
音花 仲、悪かったです!
—— ええっ。
音花 いや、私は妹のことが大好きで、妹もすごく好きでいてくれていて、すごく近い存在だったんですけど……たぶん妹は、私のことを「危なっかしい」と思っていたんじゃないでしょうか。宝塚音楽学校の合格発表も、昼休みに「自分の目で見たい」と学校を抜け出して見に行ってくれるようないい妹なんですけど、私は妹がそこまでしてくれていることを知らなくて。お互いに東京に出て仕事をするまでは、近すぎてかみ合わないことが多かった気がします。
—— 姉の立場からすると、妹の相武さんはどのように見えていたんでしょうか。
音花 私たち、性格が正反対なんですよ。根っこにある価値観や育ってきた環境は一緒だから、分かちあえる部分もすごくありはするんですけど、妹のほうが繊細で、私の方がどんぶり勘定。一回「クラスメイトとして出会ってたら、絶対友達になってないと思う」と言われてしまいました(笑)。それくらい、タイプが違うし、姉妹じゃなかったら接点がないと見えていたのかもしれない。私はもしクラスメイトとして出会っても、ふつうにお友達になっていると思うんですけど……。
—— もしかしたら「妹の気持ちあるある」なのかもしれません。私も姉に対して同じセリフを言ったことがあります……。
音花 そうなんですね! 妹という立場のほうが、振り回されてしまうのかも。私たちの場合は、たぶん思いあっている気持ちは一緒なんですけど、私が「自分の道に精一杯!」な時期も長かったので、振り回してしまっていたかもしれない。私がなにか失敗したら、妹の方が泣いてくれるんですよ。めちゃくちゃ情にあついんです。なのに「友達になれない!」なんて言われる。アメとムチみたいな……。
—— 勝手に推測しますと、愛情の裏返しなのではないかと思います。
音花 そういう面も、たまらなく好きなんですけどね(笑)。妹にはいまだにすごくお世話になっていて、悩みや相談事は「まず妹に相談すれば間違いない!」という信頼があります。
次回に続く