最初で最後の「営業」
フリーになった時、必ず話題として出るのが「営業」である。どのようにしてこれまでの自分の実績を見せるか、営業はそもそもした方がいいのか? 人のツテで営業をすればいいのか、はたまたいきなり相手に連絡を取ってしまえばいいのか……。こういったことがフリー同士で飲んだ時はよく議論される。
私は11年間のフリー生活で1度だけ営業をしたことがあるが、これぞまさに「セブン」の仕事をしている時だった。当時の仕事としては、日経エンタ! とセブンの二つがあったが、これでは月に10万円ほどしか稼げない。日経エンタは特集があれば別のお金は入るが、基本は15000円である。セブンは、2週間に1回のペースで仕事が回ってくるので、1回40000円としたら、2回で80000円だ。元々設定していた生活費の月90000円はクリアしていたものの、これではジリ貧である。ほかの収入源も探る必要があった。
そんな時、たまたまセブン編集部の向かいに東京ニュース通信社のテレビブロス編集部があった。ブロスは元々私はそこに掲載されているコラムや特集が好きだったので、「ライターになったからにはいつかはブロスの特集を作ってみたいものだ」と夢想していたのである。
そこで、ある日、意を決してブロスの裏表紙に記載されてあった編集部の番号に電話をしてみた。
私 あっ、ライターのなっ、中川と申しますが、けっ、K編集長いらっしゃいますでしょうか?
K 私がKですが……。
私 すっ、すいませんっ! しっ、仕事をさっ、させていただけませんでしょうか?
K はっ????
私 とっ、突然すいません。しっ、仕事をしたいと考えておりまして、でっ、電話を差し上げました。
この時私は相当緊張していたのだろう。浅草キッドが描くところのダチョウ倶楽部・寺門ジモンのような喋り方でK編集長と終始話をしていた。この書き方は書く方も読む方も面倒くさいだろうから、ここから先は普通の喋り方にする。
K それで、中川さんはこの仕事は長いんですか?
私 まだ1ヶ月ちょっとです。
K はっ????
私 すいません、全然キャリアが長くないんです……。
K じゃあ、それまでは何をおやりになっていたんですか?
私 今年の春までは博報堂にいました。御社のテレビガイド、ブロス、B.L.T.、テレビタロウのミニ広告枠を売ったりしていました。
K そうですか……(ここでしばし黙る)。だったら数字とかはお強いですか?
まさかの返しである。こちらとしては、ブロスで仕事ができるのであれば、なんでも良かったため、本当は数字に詳しいわけもないのだが、「一応、マーケティングデータを見たり、定量調査・キャンペーントレース的なことはやっていたので、ある程度の数字は分かると思います」と答えた。
いずれも「ちょっと見たことがある」程度なのだが、それらしき言葉を勢いで並べてみた。するとK編集長は驚きの提案をするではないか!
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