アメリカでも年末はみんなが忙しい。
日本のような忘年会や仕事納めはないが、11月にはサンクスギビング、12月にはクリスマスで家族全員が集まらねばならず、そのうえ会社ではクリスマスパーティーやニューイヤーパーティがある。 家族ぐるみで仲良くしている人たちと、なんとかやりくりして夕食会をするのもこの時期だ。
私が昨年末に会えた家族は、それぞれ文化も職業もバラエティがあった。夕食会での料理も、七面鳥のロースト、シーフード、トルコ料理と多種多様。けれども、すべての席で話題に上がったのが「今年一番印象に残った本」だった。
読んだ本について、見解を述べるのは、今でもアメリカのエリートたちの間では、ありふれたゲームだ。
素晴らしいトルコ料理を作ったのは、かつて町の図書館のボランティア理事を務めていた友人だ。二つの家族がそれぞれ近況を語り終えたところで、彼女は周囲を見渡し、「私の右から順番に、ぐるりと今年読んだ一番お気に入りの本を披露することにしましょう!」とにこやかに宣言した。
大学生もいるテーブルなので、文芸小説だけでなく、ノンフィクション、SF、ファンタジー、コミックブックと幅も広い。「あ、それ知ってる!」とか「話題になっているけれど、本当におもしろいの?」とか、世代やジェンダーを超えた会話がはずむのが楽しい。
かつて読書は、どの文化でも特権階級の特典であり、英米ではシェイクスピアなどの古典から、その場の状況に応じてパラグラフを引用して諳んじることができるのが知性と教養の証拠だったりした。誰かが引用したら、その出典を即座に言い当てるのも。
記憶力に欠ける私は、「ほら、あのジャマイカ人作家が書いたあの本よ。タイトルなんだっけ?」という感じなので、そういう時代でなくなって本当にありがたい。でも、いまでもアメリカではいろいろな場面で「読書」が重視されている。たとえば、大学や大学院の入学選考、就職のときの面接では、必ずといっていいほど「最近読んだ本は?」と質問される。そのときに本のタイトルだけでなく、内容について独自の意見が言えないといけない。
「忙しくて本を読む暇がない」という言い訳はできない。 収入格差が広まっているアメリカだが、トップ10%に属する人ほど本を読んでいると言われ、ビル・ゲイツや歴代大統領は相当な読書家として知られている。だから、上司や教授から「最近なにか読んだ?」と尋ねられたときのために、ミステリでもいいから1冊くらいは用意しておかなければならない。
実はジャンルは何でもいい。ヒラリー・クリントンの愛読書リストにも、ヒロインが少々お下品なロマンチック・ミステリがあったくらいだから。どんなジャンルの本であっても、情熱的に語ることができればOKだと私は思っている。
とはいえ、夥しい数の「2015年ベスト本リスト」のなかから選ぶことそのものが大変な作業だ。また、私の好みはSFやファンタジー(とくに本格的な長編ファンタジー)なのだが、この分野が好きな人同士でないとしらけられるだけだろう。そこで、私が知っているアメリカの読書家たちが2015年によく話題にした文芸小説3冊とノンフィクション・実用書3冊をご紹介しよう。
日本でもそのうち邦訳出版されると思うが、そのときに「ああ、あの本ね」と手にとってもらえればうれしい。
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