新年あけましておめでとうございます!今年も本連載でホットな宇宙ネタを楽しく、わかりやすくお届けしていくので、ぜひよろしくお願いいたします!
さて、年の初めですので、絶対に見逃せない2016年の有人宇宙飛行や宇宙探査のイベントを予習したいと思います。
5月21日:大西卓哉宇宙飛行士、国際宇宙ステーションへ!
2015年の油井さんに続いて、今年は大西さんが国際宇宙ステーション(ISS)で約半年の長期滞在を行います。大西さんは元全日空のパイロットで、2009年に油井さんと同期で宇宙飛行士に選抜されました。大西さんにとっては今回が初の飛行で、宇宙を飛ぶ11人目の日本人になります。油井さんの飛行で日本人の合計宇宙滞在日数は1000日を超え、ロシア、アメリカについで3位となっています。大西さんはこの記録をさらに伸ばすのみならず、科学的に価値のある様々な実験を行います。
ISS第48次長期滞在のミッション・ポスター。大西さんは一番上。
Image: NASA
毛利さんや向井さんの頃は日本人が宇宙へ行くというだけで国全体がお祭り騒ぎでしたが、最近ではすっかり日常的になった感があります。非常に大まかに言って、ISSの6人の定員の割り当ては、3人がロシア、2人がアメリカ、0.5人が日本、0.5人がヨーロッパ、それにカナダが少々、となっています。ISSのクルーは基本的に半年交代なので、1年につき一人の日本人が、約半年をISSで過ごすことになるわけです。
一方、大西さんたちの到着前にISSを去るのが二人のベテラン宇宙飛行士、アメリカのスコット・ケリーと、ロシアのミハイル・コルニエンコ。この二人はISSの通例を破り、丸々1年を宇宙で過ごすミッションを現在遂行中です。将来の有人火星探査を見越し、長期間の宇宙滞在の経験を蓄積するのが目的です。
ちなみにケリー宇宙飛行士にはマーク・ケリーという名の双子の兄弟がいて、彼もNASAの元宇宙飛行士です。まさに「リアル宇宙兄弟」なのです!選抜されたのは双方とも1996年の同期なのですが、宇宙を飛んだのはスコットの方が2年早いので、彼のほうがヒビト的な立場でしょうか。ちなみにちなみに、マークの妻は元連邦下院議員(日本で言う衆議院議員)のガブリエル・ギフォーズなのですが、彼女は2011年に銃撃事件の標的にされました。頭部を撃たれ重体に陥ったものの、奇跡的に一命は取り留めました。マークが宇宙飛行士を引退したのは、奥さんのリハビリを支えるためだったそうです。
2月12日:H-IIAロケットでASTRO-H打ち上げ!
2016年は無人探査機によるイベントも目白押しです。まず2月には、日本のX線天文衛星、ASTRO-Hが打ち上げられます。X線天文学は日本のお家芸ともいえる分野で、現在までに5機の宇宙望遠鏡を打ち上げてきました。X線とは、紫外線よりもさらに波長の短い(エネルギーの高い)光で、身体検査でレントゲンを撮るときに照射される光もあります。X線で宇宙を見ると、ブラックホールや中性子星など、宇宙でもとりわけダイナミックな活動を行う天体の姿を捉えることができます。しかもX線は大気に吸収されてしまうので、地上の望遠鏡からでは決して見ることができません。
ASTRO-Hは「冷凍庫」が積まれています。生ものが乗っているわけでもあるまいし、どうして人工衛星に冷凍庫が、と思われるかもしれません。ASTRO-Hの目玉のひとつは、世界初のマイクロカロリメータと呼ばれるセンサーによる観測です。このセンサー、マイナス273度の絶対零度付近(0.06K)までキンキンに冷やす必要があるのです。機械式冷凍機と液体ヘリウムを組み合わせてこの極低温を実現します。この観測が実現できれば、X線天体の温度や組成などを今までにない精密さで計測できるのです。実はマイクロカロリメータによる観測はASTRO-Hの先代にあたる「すざく」でも試みられましたが、機器の不具合で達成できませんでした。それだけ難しいことなのです。きっとASTRO-Hはすざくの挽回を果たし、今まで見ることができなかったダイナミックな宇宙の姿を明らかにしてくれることでしょう!
3月14日:ヨーロッパの火星オービター、TGOの打ち上げ!
2016年は2年に一度、火星へのローンチ・ウインドウが開く年です。ローンチ・ウインドウとは打ち上げのチャンスのことです。地球と火星は異なる周期で太陽の周りをぐるぐると回っています。だから火星へ旅に出ようと思っても、いつでも出発できるわけではありません。効率良く行くための打ち上げのチャンスは、2年2ヶ月に一度しか訪れないのです。
そのチャンスを利用して、ヨーロッパの探査機が火星へ飛び立ちます。ロシアとの共同ミッションで、打ち上げはロシアのプロトンロケットにより行われます。約7ヶ月にわたって宇宙を旅をした後、10月に火星軌道に投入されます。ちなみにNASAもこの機会にInSightという着陸機を打ち上げる予定だったのですが、フランス製の地震計に不具合が見つかり、打ち上げが延期されてしまいました。
ヨーロッパの火星探査機、Trace Gas Orbiter. Image: ESA
このミッションの主役はTrace Gas Orbiter (TGO)という名のオービター、つまり火星の周りをぐるぐると回る人工衛星です。Trace gasとは希薄ガス、つまり火星の大気に僅かに含まれるガスのことで、それを調べることが火星に存在するかもしれない生命現象の解明の手がかりになります。
たとえば、火星ローバー・キュリオシティーは、走行中に何度かメタンガスを検出しました。しかし、どこにメタンの発生源があるのか、そしてどのような仕組みで発生するのかは謎のままです。地球ではメタンはありふれた物質で、火山から発生する他、メタン菌や牛のゲップなどからも発生します。火星に牛がいてゲップをしていることはさすがになさそうですが、地下に微生物がいるのではないかと考える学者もいます。TGOは、メタンガスがどこにどう分布していて、時間的にどう変化するのかを観測することで、この謎の回目の手がかりを与えてくれるのです。
TGOは「通信衛星」としての機能も持ちます。2018年にはヨーロッパのExoMarsローバー、そして2020年にはNASAのMars2020ローバーが打ち上げられます。TGOはこれらのローバーからの電波を地球へ中継する役割を担うのです。
7月4日、Junoの木星軌道投入!
現在、Juno(ジュノー)というNASAの探査機が木星へ向かっています。アメリカ時間で2016年7月4日、5年の旅の末に木星に到着し、軌道投入のためのエンジン噴射を行います。7月4日というとアメリカの独立記念日。狙ってこの日にしたのかと思われるかもしれませんが、実際は全くの偶然とのこと。この日はアメリカでは花火の日。全米の街で花火大会が行われます。今年は地球だけではなく、宇宙のはるか彼方、木星でもひとつの花火が見られることでしょう。
木星を訪れる探査機としては9機目ですが、その多くは旅の途中で立ち寄った(フライバイ)だけでした。ジュノーは木星に軌道投入される、つまり木星のまわりをぐるぐると回って長期間観測する2機目の探査機です。1機目はガリレオで、2003年に役目を終えています。ジュノーは木星の重力場や磁場の観測を行い、また木星がどのように形成されたかを解明する手がかりを掴むことが期待されています。
ジュノーにはちょっとした「おまけ」も載っています。ガリレオ・ガリレイのLEGO人形です。長期間の宇宙飛行に耐えるようにプラスチックではなくアルミ製。右手には木星を、そして左手には望遠鏡を持っています。ガリレオがこの望遠鏡を木星に向け、木星の4つの衛星を発見したのが1610年のこと。その400年後に自分の人形が木星に飛んでいくなんて、本人は想像したでしょうか。
ジュノーに積まれているレゴ人形。左がガリレオ・ガリレイ、右がローマ神話の神ユピテル(木星の語源で、ユピテルの英語読みがジュピター)、真ん中がユピテルの妻のジュノー、つまりこの探査機の語源です。
Image: NASA/JPL-Caltech