クレアはいまも頭がよくておもしろいだろうか? ジュリアがいなくなってヘレンが機能しなくなったあと、クレアを時間どおり学校に行かせ、ランチのお金を渡し、きれいな服を着ているか目を配るのはリディアの役目だった。クレアが秘密を打ち明けるのはいつもリディアだった。ポールが引き裂くまでふたりは親友だった。
リディアは言った。「大人しい子なのよ。衝突を嫌って、言い争いを避けるためなら地球の裏側にでも行くような」
「養子だったのか?」
リディアはリックの腕を叩いた。「まじめな話、狡猾なぶりっ子だった。表向き賛成しているように見せて、裏ではなにをしているかわからない」リックがなにか言うかと思ったが、彼は口をつぐんでいた。「絶縁する前、あの子をほんとうに理解しているのは世界でわたしだけだと思ってたわ」
「いまは?」
墓地でクレアがなんと言ったか正確に思いだそうとした。「わたしのことなんかなにも知らないくせに、ってあの子は言った。そのとおりよ。ポールと一緒のクレアのことはなにも知らない」
「そんなに変わったと思うか?」
「だれにわかる? ジュリアがいなくなったとき、あの子は十三だったのよ。わたしたちはみんなそれぞれのやり方で対処してきた。わたしがなにをしたかは知ってるでしょ、パパとママがどうなったか。クレアのやり方は自分を目立たなくすることだった。みんなに賛成して——少なくとも表面的にはね、なんの問題も起こさなかった。学校の成績もよかった。チアリーディング部の副キャプテンだった。人気者の女子たちと一緒に行動してた」
「おれには充分目立つように聞こえるがね」
「じゃあ、わたしの言い方が悪いのね」リディアはもっと適切な言葉を探した。「クレアはいつも自分を抑えていた。副キャプテンであって、キャプテンじゃないの。クォーターバックの男子とつきあえるのに、その弟とつきあってた。クラスでトップになれるのに、 わざと遅れてレポートを出したり、課題を忘れたりして真ん中へんにいるようにした。マウナ・ケアのことも知ってるだろうけど、注意を引きたくないからエベレストだって答えるわ」
「なぜ?」
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