プリティ・ガールズ

クレアを失った苦しみと、ジュリアを失った悲しみ

母親もクレアも耳を貸さなかったリディアの言葉に、リックは優しく耳を傾ける。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

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 リディアはリックの膝に頭を乗せてソファでくつろいでいた。すぐそばの床に犬が二匹、 脇腹のあたりに猫が一匹いて、ハムスターがまわし車でマラソンを走り、ディーの部屋のインコは鳥かごの針金にくちばしを擦りつけている。大きな水槽のなかでは魚たちが静かに泳いでいる。

 リックは無意識にリディアの髪に指を走らせていた。十時のニュースを見ていたのは、 惨めすぎて十一時まで眠れそうにないからだ。警察は、アナ・キルパトリックの動かなくなった車の近くで目撃された男の似顔絵を公開した。笑えるほど漠然とした絵だった。長身もしくは中背。目はブルーかグリーン。髪は黒か茶色。タトゥーや特徴的な痣などはなし。これでは実の母親でもわからないだろう。

 画面はジョニー・ジャクソン議員の録画インタビューに切り替わった。キルパトリック家はジャクソン議員の選挙区に住んでおり、彼は法により、選挙区民の個人的な悲劇を政治目的に利用しつくす義務があった。法と秩序について演説をぶったあと、レポーターにアナの安否についてどう思うか訊かれると、彼は柄にもなく黙りこんだ。空港で売っているペーパーバックを読んだことのある人間ならば、行方不明の少女が生きて見つかる可能性は一時間ごとに低くなることを知っている。

 リディアはキルパトリック家の人々の姿が目に入らないよう目を閉じた。彼らの憔悴しきった顔は、胸が痛くなるほど見慣れたものになった。だんだんと自分たちの娘はもう帰ってこないのだと受け入れはじめているのがわかる。すぐに一年がたち、二年がたち、 残された家族は静かに十年目を迎え、二十年、そして......。子どもも生まれるだろう。孫も。結婚の誓いが立てられ、破られるかもしれない。そのひとつひとつのできごとの裏にはこの消えた十六歳の少女の影が潜んでいるのだ。

 ときどきパソコンに設定したグーグル・アラートがジュリアの名前が含まれる記事を見つけたことを教えてくれる。たいていはアセンズ近郊で死体が発見されたとき—記者が関連があるかもしれない未解決事件を調べたときにヒットするのだ。もちろんその死体がジュリア・キャロルと確認されたことはなかった。アビゲイル・エリスやサマンサ・フィンドレイと確認されたことも。それ以降行方知れずになっている十人以上の女性たちとも。

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カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2015-12-02

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プリティ・ガールズ

カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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