そこになにがあるか知っている。メイヒューが動画を開いて見ているあいだクレアは顔をそむけていた。パソコンの音声はオフになっていた。聞こえるのはメイヒューの規則正しい息遣いだけだ。人間がどれほど残酷になれるか、いちいち驚くようでは警部にはなれないのだろう。
数分が経過した。メイヒューがついにマウスから手を放した。再び椅子の背にもたれ、 口ひげを引っぱって言う。「さて、こんなものは初めて見ますと言うことができたらよかったんですが......。正直言うと、もっとひどいものも見ています」
「信じられません......」なにを信じられないのか自分でもわからなかった。
「よく聞いてください、ひどくショッキングなことはわかります。ほんとうです。初めてこういうものを見たとき、わたしも数週間眠れない夜を過ごした。たとえ偽物だとわかっていてもです」
心臓が跳ねたような気がした。「偽物?」 「ええ、そうです」メイヒューは笑いをこらえた。「これは猟奇ポルノと呼ばれるものです。本物じゃない」
「ほんとうですか?」
メイヒューはモニターを回転させてクレアにも見えるようにした。静止した画像が映っている。メイヒューはある部分を指さした。「この影が見えますか? これはスクイブにつながっている線です。スクイブはわかります?」
クレアは首を振った。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。