FBI捜査官がなんの理由もなくただの強盗事件現場に現れるはずがない。ジュリアの行方がわからなくなったばかりのころ、両親はFBIに関与してもらおうと必死に訴えたが、法律により州当局が協力を仰がないかぎりFBIが事件を見直すことはないと説明された。ジュリアは親に反発して家出したと保安官が考えている以上、そんな要請がされるはずがなかった。
クレアはウェブブラウザを立ちあげて、FBIのホームページを開いた。FAQのペー ジに行き、FBIが扱うさまざまな犯罪についての質問をスクロールし、目当てのものを見つけた。 “コンピュータ関連の犯罪。国の安全保障分野において、FBIは国家のコンピュータ化された銀行業務や財政システムに関わる犯罪を捜査します。犯罪行為の例として、コンピュータを使った詐欺やインターネットを利用して猥褻物を送信することなどが挙げられま す”。
この動画が猥褻物であることになんの疑問もなかった。フレッド・ノーラン捜査官のことはクレアの推理が正しかったのだろう。FBIはポールのパソコンにこのファイルがダ ウンロードされたことを突きとめたのだ。ドキュメンタリー番組『60ミニッツ』で、パソコンをインターネットにつなぐことは自分を国家安全保障局に売ることに等しいと政府の内部告発者が語っていたのを思いだした。たぶん彼らはポールがあの動画を見ていたことを知っているのだろう。
つまり、クレアがこれを見ていることも知っているのだ。 「大変!」ポールのパソコンは有線でインターネットに接続されている。クレアはパソコンの裏に刺さったケーブルを引き抜いた。力を入れすぎたあまりモニターがゆがみ、プラスチックのプラグから細いワイヤーが飛びだして、インターネットが切断された。クレアはほっとしたあまり気絶しそうになった。心臓が激しく高鳴り、首筋が脈打っているのを感じる。
保護観察官からはささいな法律違反でも拘置所に送ると言い渡されている。この動画を見ることは違法だろうか。自分は知らずに法を犯してしまったのだろうか。
それともばかみたいに過剰反応しているだけなのだろうか。
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