驚くほど落ち着いた手でマウスをドックに移動し、“仕事”フォルダーをクリックした。
レインボーカーソルが回転しはじめたが、ファイルのリストではなく白いボックスが現れた。
“グラディエイターに接続しますか?”。
下にイエスとノーのボタンが表示された。どうして昨日ログインしようと思わなかったのだろう。ノーラン捜査官が階段をあがってきたとき、いくつかのメッセージに対してクローズボタンを押したのをなんとなく思いだした。そのうちのひとつがこのグラディエイターとかいうものに関するものだったのだろう。
クレアは机に両肘をついてその言葉を眺めた。これはやめるべきだというサインなのだろうか。ポールはクレアを全面的に信頼していた。クレアの浮気に気づかなかったのもそのせいだ。もちろんアダム・クインが最初でもないし最後でもない。正直に打ち明けると、 バーテンダーのティムが妻に捨てられたのは理由があってのことだ。
昨日の苦い罪悪感を呼び起こそうとしたが、パソコンで見つけたあのひどい映像によって後悔の念は薄まっていた。
「グラディエイター」クレアはつぶやいた。聞いたことがある気がするのはなぜだろう。
マウスを動かしてイエスのボタンを押した。
画面が切り替わり、新しいメッセージが立ちあがる。“パスワードは?”。
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