プリティ・ガールズ

十八年ぶりの再会

ポールのお墓に放尿しようとしていたリディアの後ろに人影が現れました。それは十八年ぶりにあうあの人で……!?


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

 最初に目に入ったのは靴だった。黒いルブタン、おおよそ五千ドル。ごく薄いストッキ ング、でもいまどきだれがストッキングなんて穿く? 黒いドレス、たぶんアルマーニかゴルティエ、最低でも六千ドル。ほっそりした指に指輪はなく、小鳥のような手首にダイヤのブレスレットはなかった。肩の線はまっすぐ、背中もピンとしている。つまりヘレンの忠告に少なくともひとりは従った娘がいたわけだ。

「あら」クレアはウエストの下で腕を組んだ。「これは気まずい状況ね」

「たしかにそうね」リディアは十八年間、クレアに会っていなかったが、まさか妹が“マザー”のひとりになっていようとは想像だにしていなかった。

「ほら」クレアは二千ドルのプラダのクラッチバッグを開けて、ポケットティッシュを取りだした。それをリディアのほうに放り投げる。

 下着を膝まで下ろした状態では、どうやっても品位を保つことはできそうになかった。 「向こうを向いてくれる?」

「もちろん。マナーはどこに行ったのかしら?」クレアは反対を向いた。黒いドレスはクレアの完璧なスタイルに合わせてつくられたものだ。肩甲骨はカットグラスのように突きだし、腕は小枝のように細く日焼けしている。毎朝トレーナーと一緒にジョギングをして、 午後はテニス、そして毎晩一角獣からとったローズウォーターのお風呂に入って夫の帰りを待つのだろう。

 ポール・スコットはもう帰ってこないけれど。

 リディアは下着を引きあげながら立ちあがった。ティッシュで鼻をかみ、ポールの墓石に向かって放り投げた。猫がトイレをきれいにするように人工芝を足で元に戻した。

「楽しかったわ」リディアは傘をつかんで立ち去ろうとした。「二度とやらないけど」 クレアはぱっと振り向いた。「まさか逃げる気?」

「逃げる?」その言葉は焚きつけと同じだった。「わたしがあんたから逃げると思ってるの?」

「文字どおりあなたが夫のお墓でおしっこしようとしてたのを止めたのよ」

 リディアはこの会話にうんざりした。「うんこじゃなくてよかったわね」

「信じられない、なんて下品なの」

「あんたは死ぬほどむかつく女よ」リディアはそう言って、車に向かった。

「このまま逃げるなんて許さないわ」

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カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2015-12-02

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カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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