プリティ・ガールズ

四日目の誕生日

妹の夫であるポールのお墓を目指すリディア。彼の死はリディアにとって新しい人生の始まりでした。ポールのお墓を見つけたリディアは、そこで思いもよらない行動にでます。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

「ママ、いまのとこ曲がるんだよ」

 リディアは軽くブレーキを踏んだ。バックミラーをチェックして車をバックさせる。後続の車がクラクションを鳴らしながらリディアの車をよけていった。

 ディーはスマホを取り落としそうになった。「ママはそのうち事故で死ぬね、そうなっ たらあたしは孤児だよ」

 娘のこうした誇張にはリディアは自分を責めるほかなかった。

 学校に着くと裏の駐車スペースに車を停めた。ウェスタリー・アカデミーの豪華なスポーツ施設とちがい、アトランタのダウンタウンにあるブッカー・T・ワシントン・ハイス クールの体育館は一九二〇年代に建てられた煉瓦造りの建物で、一九一一年に大火事を出したトライアングル・シャツウェスト工場に似ていた。

 リディアは駐車場をさっと見まわした。ロックを解除する前に必ずすることだ。

「帰りはベラに送ってもらう」ディーは後部座席からスポーツバッグをつかんだ。「じゃあまたあとで」

「わたしも行く」

 ディーはぎょっとした顔をした。「だって、ママ—」

「トイレに行きたいの」

 ディーは車から降りた。「ママっていっつもおしっこしてる」

「どうもありがとう」三十二時間の労働ときたるべき更年期障害のはざまにあって、牛の乳房のように膝のあいだに膀胱がぶらさがっていなくてよかったとリディアは思った。

 後部座席からバッグを取ろうとうしろを向いた。その姿勢のままディーが建物のなかに入るのを見守る。そのとき運転席のドアが開く音がした。とっさにリディアは拳を握りしめて振り返った。「やめて!」

「リディア!」ペネロープ・ウォードが腕で頭を守っていた。「わたしよ!」

 殴るのはもう遅いだろうかとリディアは思った。

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カリン スローター
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プリティ・ガールズ

カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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