クリエイターが陥る40代の苦悩
大空 平野さんが現在連載されている『マチネの終わりに』は、天才的クラシック・ギタリスト蒔野を主人公に、大小様々なテーマが折り重なり合いながら大人のラブストーリーが描かれます。書く際に意識されたことはありますか?
平野 僕は今年40歳になったのですが、40歳という年齢をかなり意識しました。周りの小説家やクリエイターの方を見ていて、それくらいの年齢になると、行き詰まってきたり、作風を思いっきり変えたりなどという例がよくあって。
大空 主人公の蒔野も38歳、洋子は40歳ですよね。
平野 20代の頃はやりたいこともたくさんあるし、やらなければいけないことも具体的です。でも40代になると、やりたいことや書かなければいけないことは既に30代でやってしまっていて。その先のレベルに行きたいなという気持ちはあるけれど、漠然としてしまうんです。主人公の蒔野は僕とは違うタイプの人間ですが、そういったクリエイターとしての問題意識が作品のなかにあります。
大空 40代の苦悩が大きなテーマになっているのですね。
平野 もう一方で僕が最近の世の中にうんざりしていて。嫌な事件も多いですし、政治的にも殺伐としているじゃないですか。
大空 そうですね。
平野 だから小説を読んでいる時くらいは、別世界にうっとり浸れるような恋愛の話を書きたいなと。小説には『決壊』のようなストレートに社会問題を追求するものも必要ですが、一方で非現実の世界に浸れる体験も必要だと思います。
大空 私も平野さんと同年代なので、とても共感できます。私も舞台で達成したいことや上だけを目指してやってきたあとに、次に自分はどういうステージを目指すのかなと結構漠然としてしまいました。若い頃とは肉体もアプローチ法も違いますし、エネルギーだけで押す表現だけではないですしね。
平野 大空さんの場合は、宝塚時代からトップになられたあとに次のステップのことを悩まれたことがあったのですか? それとも退団されてから?
大空 宝塚時代は全くその先のことは考えずに、自分の極めたいものを極め続けることだけに集中していたんですが、宝塚を退団した時に人生の節目だと感じました。もしかしたらその時が丁度そういう時期だったのかもしれないですね。
平野 なるほど。
大空 あとこの作品は恋愛小説ですけれど、若い頃の恋愛ではこうもいかないというか……。
平野 そうですね。やっぱりそこが書きたかったところでもあって、僕が40代になってから、恋愛の比重だけが大きい若い人の物語に共感をしなくなってきたんです。仕事や家庭などの複雑に絡み合う条件の中で、恋愛があるということにリアリティーを感じて。だから両方を書かないと、恋愛の話にもならない。
大空 今の時代、40代の女性も仕事の比重が大きくなってきていますし、仕事にやりがいをもって過ごしてきたら、自分の何もかもを投げ打って恋愛にひた走っていくことは難しいですよね。
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