「下手な芝居をしやがって」もしくは「よくぞ言ってくれた」
2016年1月5日、オバマ大統領は銃規制への決意を語る記者会見をホワイトハウスで行った。そこには銃撃事件の犠牲者と犠牲者の家族が招かれていた。
コロンバイン高校など安全なはずの学校で次々と繰り返された悲劇を振り返るオバマ大統領の目がしだいに赤くなり、小学校の児童が20人も殺されたサンディフック小学校銃乱射事件について「そして、ニュータウンの小学校一年生……」と言うと喉をつまらせた。
涙を抑えるかのように瞬きを繰り返したオバマ大統領は、「愛する者が銃弾に命を奪われるなんてそのときまで想像もしなかった家族たちのことを考えるたび……、殺された子どもたちのことを思うたび、怒りがこみ上げる」と続け、ついに涙を落とした。
サンディフック小学校銃乱射事件(2012年)が全米から注目されたのは、犠牲者の幼さだけではない。住民の95%が白人で、世帯の平均所得が1200万円程度というニュータウン町は、殺人事件どころか、盗難もほとんど起きない平和な中流階級の町だったのだ。
それまで「銃での暴力はシカゴやボルチモアの治安が悪い場所に住む黒人の問題」と他人事のように思っていた中流階級の白人の親たちに、「ニュータウンでも起こるのなら、私たちの町でも起こるかもしれない」と思わせたのが、サンディフックの事件だった。
けれども、銃の暴力の犠牲になっているのは、圧倒的に都市部の黒人が多い。しかも、何の罪もない子どもたちだ。だから、指で涙を拭ったオバマ大統領が「ちなみに、シカゴの街角では、毎日起こっている」と続けたとき、周囲から拍手が起こったのだ。
「(銃規制を実現するために)銃の利益団体がつく嘘に対して勇敢に立ち上がるよう、わたしたち全員が議員に呼びかけなければならない。わたしたち全員が立ち上がって国民を守らなければならない」と涙ながらに訴えかけるオバマ大統領に対して、テレビを観ていた国民の反応は二つにわかれた。
「下手な芝居をしやがって」という反感や嫌悪を露わにする者と、「よくぞ言ってくれた」という感謝と尊敬を抱く者だ。
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