ヤービはわたしのなかに、ごく自然に出てきました
その日、ヤービは古いカイツブリの巣の中で、ずっとさがしものをしていました。
『岸辺のヤービ』より
鳥の餌台が設えてあるのを目に留めていると、
ヒヨドリにヤマガラ……、いろんな鳥が来るんですよ。
顔なじみのご近所さんを自慢するみたいに、梨木香歩さんが教えてくれた。
小さい川に沿って両岸が緑地になっている公園のほど近く。梨木さんの仕事場へお邪魔すると、あまりにこちらの勝手な想像のとおりでおもわず笑い出しそうになる。たくさん植物を植えた庭がそこにはあって、葉群れが地面のあちらこちらに複雑な影のかたちを描いている。窓の向こうのそんな光景を見やっていると、ここが日本なのか外国なのか、2015年の現在なのかもっと古い時代にいるのか、よくわからなくなってしまう。
庭に飛来する鳥の種類は、驚くほど豊富だという。やっぱり川と公園が近いから……、とまずは考えるけれど。
それもそうなんですけど、じつはどの街にも、意外なほど鳥っているものです。以前、大宮駅で、チョウゲンボウがとまっているのを見かけましたね。本来は草原にいて、ネズミなんかを狙う猛禽類ですけど。ヤマガラだって、かつては山のうえにばかり棲息していたのが、最近は公園でもよく見かけますし。
そんなに多様な生態が街の空にできあがっているなんて。街を歩いていて、珍しい鳥を見かけた覚えなんてあまりない。
それは、気づいていないだけですよ。目を向ければ、彼らはちゃんといます。
庭に面した大きな部屋は、丸ごと仕事のための空間になっている。がっしりとした机が窓際に置いてあり、梨木さんはここで執筆をする。机の前に座り、ふと目を上げれば、左右両側とも窓外を眺めることができて、植物や鳥をいつだって捉えられる。なんとも贅沢な座り位置だ。
そう、でもね、すぐ外のほうを向いて、そのまま見入ったりしてしまうから、ちょっと困ります。
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