笑いのカイブツ

頭のなかの巨大な沼に、カイブツは潜った。

食いつなぐためのコールセンターのアルバイトに通うツチヤタカユキさん。電話対応はとにかく下手で、毎日課長に怒鳴られ続ける日々でした。社会的にクズという扱いをうけて、死にたくなるような気持ちになると、決まってカイブツは現れるのでした。
他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。

2014年冬。僕はコールセンターのバイトで食いつないでいた。

この会社は、能力順に座席が決められる。あまり人と話して来なかった人生を送って来た僕は、電話応対がとにかく下手で、会社で最下位の席に座らされた。電話応対が仕事のほとんどだったからだ。

カイブツはバイト中にも、僕にいろんな言葉を投げかけてきた。

「おい、情けない姿やのう。まさかドベの席なんてな。
 お笑いであれだけがんばってきたのに、社会的には全部がノーカウント。
 表面上では、普通に働いてるけど、お前のはらわたは、煮えくりかえっとるはずや」

現れたカイブツは、僕の耳元で、そうささやいた。

「消えろ」と、僕はカイブツに言った。
しかし、カイブツが言ったこと、そのすべてが図星であった。

僕の上司である課長は定年寸前の白髪の初老で、常に何かにイライラしている。

オフィスの隅っこの、遠く離れたこの席に座ってほどなく、僕が何をしていても、課長が怒鳴りつけて来るというのが、当たり前になった。

「お前だけなんでそんなに客応対が下手なんだ! 努力が足りない自分を恥じろ、パニック障害か……」

課長に怒鳴られている時に、いつもカイブツは現れる。

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笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ
文藝春秋
2017-02-16

この連載について

初回を読む
笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ

他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん、二七歳、童貞、無職。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。人間であることをはみ出してしまった「カイブツ」はどこへ行くのでし...もっと読む

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コメント

ono_sg ツチヤさんの話凄いわ#annkw  5年弱前 replyretweetfavorite

sabianko このひとおもしろい。 5年弱前 replyretweetfavorite

416rpm 失敗したり遠回りしなかった人にこの文章がどう見えるのかすごく気になる 5年弱前 replyretweetfavorite

oimoyasann 頭のなかの巨大な沼にカイブツは潜った|ツチヤタカユキ 2014年冬の話になってます。想像もつかない精神状態になってます。 https://t.co/ZPErn8EoRD 5年弱前 replyretweetfavorite