笑いのカイブツ

すべての笑いを扱えなければ、お前は存在理由を失う」とソイツは言った。

笑いに狂い、すべてを捧げてきたツチヤタカユキさんですが、最近になって絶望がまとわりつき、自分の中に巣食うカイブツに疑念を抱くようになりました。
他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。

2015年、風の冷たくなった秋の終わり。
自転車でひどく転んだ怪我は、巨大なカサブタとなって、しばらく僕の足にへばりついていた。

僕は自分の気持ちを鎮めようと、ノートに絶望を書き殴っていた。クソみたいな言葉を紙の上に吐き出しながら、自分の中の何かがすっかり変わってしまったのを感じた。


すべての人間の頭の中には、街がある。

15歳の僕の頭の中にも、街があった。僕のそれは、どこにでもあるような何の変哲もない街だった。

かつてそこにあった、ありふれた街はもうない。今その場所には、巨大な人骨で作られた塔だけが、ぽつねんと立っていた。

それだけがそこにあり、他には何もない。

25歳の頃、僕はその塔の頂上から、身投げして死んだ。
このカイブツの正体はきっと、25歳の僕の亡霊だろう。それから、僕とカイブツは、2つに分裂した。

「お前、変わったな」

以前の僕を知っていた人は言った。

「あの頃はお笑いのことしか考えてへんかったのに、今はお笑いから逃れようとしてるみたいや」

その通りだった。
僕は自分が、15歳の頃の臆病な自分に戻ったような感覚だった。すべての元凶は、このカイブツだ。

僕はカイブツの消滅を祈った。だが、カイブツはいつまで経っても、消えることはなかった。今では勝手にしゃべり散らす。

「“2度目”の自殺も失敗したな」と、カイブツが僕に言った。
「うっさいわ。引っ込め」

僕がずっと夢見てきたのは、自分の力で、笑いの世界に激震を起こすことだった。
けれど現実は、激震どころか仕事がほとんどない状態だった。最近、すべてが無駄だったのかもしれないと気づいてしまった。

カイブツが勝手に外に出てくるようになったのはその頃だろうか。

今では扱ったことがない漫才を見るたびに、カイブツが勝手に外に出てわめき散らすのが当たり前になった。

2014年のTHE MANZAIが終わった直後も、カイブツは外に飛び出して、こう言った。

「すべての笑いを扱えなければ、お前は存在理由を失う」

そこからは、見たばかりの漫才を書き起こし、その方程式を分解し、そこに新しい要素を代入して、自分の物にする作業が始まる。それをしなければ、こいつは中に引っ込んでくれない。

方程式練習用漫才は、大体、1本につき20分で完成させる。2014年のノートに勝手に書きなぐったのは、これだ。


【博多華丸・大吉】

華丸「今日はちょっと大吉さんにお話があるんですが」

大吉「なんでしょう?」

華丸「EXILEに入りたい!」

大吉「えっ?」

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笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ
文藝春秋
2017-02-16

この連載について

初回を読む
笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ

他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん、二七歳、童貞、無職。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。人間であることをはみ出してしまった「カイブツ」はどこへ行くのでし...もっと読む

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コメント

manseikatakori メンディーの後ろに隠れる華さん……(笑) 3年以上前 replyretweetfavorite

ono_sg 続きが気になる #annkw 3年以上前 replyretweetfavorite

kiyora6lt 新年初ツチヤ。早く続き読みたい。 3年以上前 replyretweetfavorite