どうしてアメリカの大統領選が世界中から注目されるのか
この予備選で、共和党の大統領候補のひとり、ドナルド・トランプが注目を集めている。トンデモ発言ばかりなのに、高い人気を誇っているからだ。
彼の異様な人気の謎を解き明かす前に、さらっとアメリカの大統領選挙が世界から注目を集める理由に触れておきたい。
簡単にいえば、誰が大統領になるかで今後数年の世界の政治や経済が大きく変わる可能性があるからだ。
それを顕著に示すのが、2000年のブッシュVSゴアの大統領選挙に続く歴史だ。ちなみにこの大統領選は、アメリカ史上もっとも接戦になった。
クリントンが大統領だった2000年以前の8年間は、失業率は低く、経済だけでなく国際政治も近年もっとも安定していた。その安定に慣れてしまった国民は「政治家なんてみんな同じ。誰が大統領になっても変わらないさ」としたり顔で語り、政治への関心は薄くなっていた。
ディベートでは、すべての質問に知的な解答ができるゴアのほうが適任者であるのは明らかだったのに、難しい専門用語を使うゴアに反感を抱き、答えが見つからずに戸惑っているブッシュに「俺たち普通の国民みたいで親しみがもてる」とかえって好感を抱く人が出てきたのである。
そして、一般投票で勝利したゴアが選挙人投票でブッシュに敗れるという誰も想像できなかった結果になり、当初ブッシュ候補を馬鹿にしていたリベラルな知識人は呆然とした。
そして、御存知の通り、ブッシュ政権で起こったのが、2001年9月11日の「同時テロ」であり、「イラク戦争」だ。そして、この「イラク戦争」が「ISIS」誕生に大きく貢献している(イラク戦争とその直後のブッシュ政権の対応がISISを「作った」と断言する人もいる) 。「誰が大統領になっても変わらない」とうそぶいてニヒルになっていたアメリカ国民がゴアに投票していたら、歴史は変わっていたのだ。
このように、アメリカ大統領戦の結果は、世界の未来を大きく変える可能性がある。だから、アメリカと関わる国のリーダーやビジネスマンは、選挙の行方を真剣に追う。
異様な盛り上がりを見せるトランプ人気
次の大統領選挙は2016年11月で、共和党と民主党の二大政党は、2月から6月にかけて各地で行われる予備選の結果から、それぞれ7月の全国党大会で党の候補を決める。
この予備選で、共和党の大統領候補のひとり、ドナルド・トランプが注目を集めている。
アメリカのことを少しでも知っている人なら、トランプには馴染みがあるだろう。不動産会社トランプ・オーガナイゼーションの会長、カジノやホテルを経営するトランプ・エンターテイメント・リゾーツの創業者、といったビジネス面よりも、アメリカではテレビ番組「アプレンティス」や美人コンテストの「ミス・ユニバース」のオーナーとして知られている。
また、公の場で他人(とくに女性)を容赦なく酷評したりする癖があり、ロージー・オドネルなどの有名人とこれまで何度もいさかいを起こしている。
そのトランプが、共和党の予備選で首位の座を守り続けており、この勢いなら、共和党候補として選ばれるだけでなく、次期アメリカ大統領になりかねない。
これがどれほどの珍事であり、世界の要人を震え上がらせているかを説明しよう。
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