プリティ・ガールズ

倒錯趣味

夫のパソコンに入っていたポルノ動画を見て動揺するクレア。夫について問いつめてくる刑事は、ただの新米刑事ではないようです……。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)


 ただのポルノではない。

 かなりきわどいポルノだ。

 革のビスチェ姿の若い女がコンクリートブロックの壁に鎖でつながれていた。首には鋲のついた犬の首輪がはめられている。両腕と両脚は大きく広げられ、クロッチ部分のない革のパンティがはち切れそうになっている。女はおびえた甲高い声をあげているが、 最近のホラー映画というより七〇年代のポルノ映画のようだった。

 クレアは開け放したドアにおずおずと視線を走らせた。音は消したが映像はそのまま流しつづける。

 女がいるのは汚い部屋で、ポールがこんな映画に興味を持っていたことへのショックがいっそう強まった。

 かなり若い女だがぎょっとするほどではない。黒髪はシックなショートカット。目のまわりをたっぷりしたマスカラで縁取っている。真っ赤な口紅が唇をより大きく見せている。胸は大きくないが、すばらしい脚だ。ポールは昔からクレアの脚が好きだった。足首にモニターをつけていてもなお。

 むしろ彼は足首のモニターがひどく気に入っていた。路地で人が変わったように荒っぽく振る舞うまで、それが唯一見たポールの変態的側面だった。

 だがいまは、もちろんこの尋常でない動画がある。

 突然画面が男の頭の大写しになった。口元と目元が開いた革製のスキーマスクをしている。男はカメラに向かって笑みを浮かべた。ファスナーから赤い唇が覗いているところは不気味だったが、ポールが男を見ていたとは思えなかった。

 焦点がぼやけ、それからはっきりした。男の顔から笑いは消えていた。女のほうに歩いていく。勃起したペニスがぴったりした革製のブリーフからそそり立っているのがはっきりとわかった。手に握られた山刀の長い刃が頭上の照明に反射する。男は女の一メートルほど手前で立ちどまった。

 山刀が弧を描いた。

 クレアは息をのんだ。

 山刀が女の首に振りおろされる。

 クレアは再び息をのんだ。

 男は刃を引き抜いた。あたり一面に血が吹き飛んだ—壁にも男にもカメラにも。

 クレアは目を離せず思わず身を乗りだした。

 これは本物? 現実に起きたこと?  女の身体は震え、つながれた腕や脚が鎖を引っぱり、頭ががくがく動いている。血が胸へと流れ、足元にたまった。

  男が彼女を犯しはじめた。

「ミセス・スコット?」

 思いきり飛びあがったせいで、椅子が壁にぶつかった。

「そこにいるんですか?」フレッド・ノーランが階段を上がってくる。

 クレアはやみくもにキーボードを叩き、なんとか動画を止めようとした。

「ミセス・スコット?」ノーランの足音が近づいてくる。「いらっしゃらないんですか?」

  クレアはコントロールボタンを押しながら、何度もQのキーを叩いてプログラムを止めようとした。エラーメッセージがいくつも飛びだしてきた。マウスをつかんでひとつずつ閉じていく。レインボーカーソルがくるくるまわりはじめた。「もう!」小声で悪態をついた。

「ミセス・スコット?」フレッド・ノーランが開いたドア口に立っている。「どうかしましたか?」

  クレアはパソコンを振り返った。助かった。デスクトップは真っ暗になっていた。声が震えないように気をつけた。「なにか用ですか?」

「さっきはすみませんでしたとお伝えしようと思って」

 クレアはうなずいた。まだ話ができる状態ではなかったから。

  ノーランは部屋を見まわした。「いいオフィスだ」

 目を閉じるとあの女性やあの男の姿、血しぶきが浮かんできそうで、クレアは瞬きしないように努めた。

「とにかく」ノーランは両手をポケットに突っこんだ。「ご主人の件でレイマン刑事と話したことを伝えたかったんです」

 何度か咳払いしたのち、ようやく声が出た。「なんですって?」

「アトランタ警察のレイマン刑事です。ご主人が殺された晩に話をしたでしょう?」

 クレアは息を止めて心を落ち着かせようとした。「ええ」

「あらゆるつながりを探りましたが、ご主人に起きたことと今日の強盗に関連はなさそうです」

 クレアはうなずいた。歯を食いしばっていたせいで顎に鋭い痛みが走る。

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この連載について

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プリティ・ガールズ

カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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