その名の通り、緑に囲まれた「三鷹の森ジブリ美術館」
圧倒的クオリティ!ジブリ美術館「幽霊塔へようこそ展」へ
片桐仁(以下、片桐) 三鷹の森ジブリ美術館は、子どもが生まれてから初めて行ったんですが、行く前は正直ちょっとナメてました。美術館としてはそこまで大きくはないんだけど、とにかく細部へのこだわりがハンパじゃない。初めて行ったときの衝撃ったらもう! ジブリ作品が好きじゃないと楽しめないんじゃないかとか、そういう心配は一切無用です! 敷居は低いのに、クオリティは圧倒的に高い。そして、現在開催中の企画展示「幽霊塔へようこそ展 ―通俗文化の王道―」は、宮崎駿さん渾身の企画ということで、とっても楽しみです。あ、あと、この連載のためにベレー帽を買いました! 長く続きますように!!
展示概要
本展は、宮崎駿監督が企画・構成を担当。展示のモチーフとなった江戸川乱歩の長編小説『幽霊塔』は、宮崎監督が中学時代に夢中になったという作品で、作中に出てくる時計塔は、監督の初映画監督作『ルパン三世 カリオストロの城』など後の作品にも大いに影響を与えている。
展示では、作中に登場する巨大な時計塔を中央ホールに立て、宝物が眠っているという迷路をアレンジして制作。さらに、『幽霊塔』の魅力や『カリオストロの城』の制作秘話を描きおろしパネルで解説している。
入り口ではトトロがお出迎え
ギミック満載の巨大時計塔
片桐 うわ、いきなりでかい! これは時計塔ですか?
—— はい。高さは12.5mあります。下のレバーを回すと、歯車が回って時計の針が動きますよ。
片桐 おー! こういうの子どもは大好きでしょう。大人も好きですけど。
(鐘の音)ゴーンゴーン
片桐 鳴った! 音も出るんですね!
—— 塔の中に入って、上に登ることもできます。
片桐 入り口の木枠も素敵ですね。(中の螺旋階段を登りながら)せまい! それがいい! テンション上がるわ~。
—— これは和時計なので、いわゆる西洋の時計とは違う作りなんですよ。
片桐 日本はハイブリッドの国ですからね。和洋折衷だけじゃなく、中国とかも全部入れちゃう。
—— ちなみに、館内に流れている音楽は、久石譲さんが書き下ろしたオリジナルです。
片桐 贅沢だなぁ~。
宮崎駿の異常なこだわりと記憶力
—— ここからは、パネル展示と迷路があります。
片桐 あ、さっきの時計塔は「幽霊塔」だったんですね。
—— 詳しくはパネルで解説していますが、この幽霊塔には元になったお話があります。それは西洋のお話で、塔も洋館のイメージだったのですが、宮崎は「江戸時代末期に立てられたのだから和風だろう」ということで、和洋折衷の時計塔を考えました。
片桐 塔といえば、宮崎さんのアニメ作家としての原点みたいなものですもんね。みんな大好き「カリオストロの城」でも重要なモチーフですし。
片桐 「僕の幽霊塔」ってすごいな……。宮崎さんが本を読んで、そこから想像を膨らませて描いたってことですよね?
—— そうです。宮崎は描くのに五ヶ月かかりました。出来上がったのが内覧会の前日でしたから。これらは『幽霊塔』を読み解いていった宮崎自身のドキュメンタリーのような絵ですね。
片桐 もはや宮崎駿さんは変態ですね。天才じゃない。小説を読んで絵を想像することはあるけど、それを70年かけて膨らませないでしょう、普通は。記憶力とこだわりが異常すぎます。この細かいギミックの描写とか、尋常じゃないですよ。
—— 宮崎は目で見て仕組みが分かるものが好きなようで。電気よりは蒸気。コンピューターのように、見えないところでいつの間にか結果が出るものは、あまり好みません。
片桐 だから歯車も好きなんですね。スマホとかハードディスクレコーダーとか、いまや当たり前にみんなが使ってるものは、もう全部イヤでしょう。
—— VHSのほうがまだいいでしょうね(笑)。
片桐 テープが見えるから。塔の断面図も描いてますけど、筆がノリまくってますよ。
—— 宮崎は小説を読みながら、部屋はどうなってるんだろう? 構造はどうなってるんだろう?と常に考えるらしいのですが、江戸川乱歩の原作だけではすべてを想像できず、それならばということで、自ら創作して絵にしているんです。なので、事実としては怪しい描写も正直いくつかありますね。
片桐 いやいや、ここまできたら事実とか関係ないですよ。創作物として一級品ですもん。
—— 迷路も入ってみますか?
片桐 ぜひ!
片桐 入り口が低い、そして狭い……。幼稚園児仕様です。
—— 原作が「幽霊塔の地下には迷宮が広がっている」という話なので、その迷宮をイメージして作りました。
片桐 壁は段ボールでできてるんですね。
—— ジブリの社内保育として保育園がありまして。そこの地下に子どもたち用にと、お父さんたちが段ボールを並べて迷路を作ったんです。その迷路で楽しそうに遊んでいる子どもたちを見た宮崎が「これだ」と。段ボールならぶつかっても痛くないですし、親の目線から見渡せるので、子どもがどこにいるかも分かります。
片桐 たしかに見渡せますね。大人は展示のパネルをじっくり見て、その間に子どもは迷路で遊んで。美術館として、そういうところまで配慮されているのはすごくいいと思います。そもそも普通の美術館は、子どもにはあんまり来てほしくないと思うんですよ。騒ぐし、触るし、走り回るし。でもジブリ美術館は親子連れが多いから、こういう場所があると親も子どもも喜びますよね。
「のぞきあな」といった仕掛けも満載
やる気満々!? もし『幽霊塔』を映画化するなら
—— 続いては、もし宮崎が『幽霊塔』を映画化するなら……という絵コンテの展示です。
片桐 もう始まっちゃってんじゃないですか! 予定もないのに絵コンテ描いちゃうって、どんだけですか!
片桐 生き生きとしたキャラクターやストーリーはもちろん、SE(効果音)までばっちり書いてある……。やっぱり宮崎駿は変態だ……。
今回の展示のもとになった江戸川乱歩『幽霊塔』を少年向けにリライトした『時計塔の秘密』
—— そして、宮崎が『幽霊塔』を自分なりに解釈し、作品へ昇華したのが、こちら『ルパン三世 カリオストロの城』のジオラマです。
原作:モンキー・パンチ©TMS
片桐 出た~!!
—— パースが歪んでいますが、上からのぞくとよく見えますよ。
片桐 ほんとだ! しかも時計の針のところには、クラリスと伯爵のフィギュアが!! けっこうよくできてるし! 塔の中にゼンマイまであるし! 最初に『カリオストロの城』を観たとき、なんか外国の話なのに和風だなって思ったんですけど、それは宮崎さんが影響を受けたものを自分なりに昇華した結果だったんですね。
—— 実はここにも子どもたち用に隠し穴があります。
片桐 あ、あそこだ! これは子どもの目線じゃないと分からないかもしれないですね。(穴をのぞいて)はは~、こういう演出ですか。これは、読者の方には来てからのお楽しみにしてきましょう。
宮崎監督作品が描く“縦”の世界
—— 今回の企画展、最後の展示はこちらの『カリオストロの城』制作について語ったパネルです。
片桐 こういうの、読めば読むほど、宮崎さんにしか見えていない世界が多すぎますね。「私たちの感覚は縦の運動に強く反応する」だって。
—— 宮崎作品の特徴として、下から上にという縦方向に展開される作品が多いんです。
片桐 は~。たしかに『カリオストロの城』も下から上にどんどん上がっていきますね。『天空の城ラピュタ』も『千と千尋の神隠し』もそうだ。
—— 実は、このジブリ美術館も縦の構図になっているんです。地下から上に上がっていくという。
片桐 なるほど~。普通、美術館は並べられた展示を横に移動しながら見ますけど、ここは縦に上がっていきますね。いやあ、すごいな~。
まとめ
宮崎駿さんのすごさは、やはり「イメージの力」だと思います。何かに触れて、どれだけイメージを膨らませることができるか。今の時代、インターネットをはじめ、いろんなものを見せられて情報過多になっていますが、自分がどう感じるか、何を感じるか、そのセンスこそが問われている。とくに男は情報に弱いので、情報を浴びまくって右往左往しがちですが、情報はあくまでただの情報に過ぎません。みんな、宮崎駿の想像力を見習いましょう。
それと、アンチジブリとか言っている食わず嫌いの人たちにこそ、ここに足を運んでほしい。ジブリはあまりにもメジャーになってしまったゆえ、「昔は良かった」とか「もうオワコン」とか言っている人もいますが、いやいや全然まだすごいから! そう思ってる人の狭い世界なんて、宮崎さんの爆発するイメージの力が一気に吹き飛ばしますよ。ここは普通の美術館ではありません。大人も子どもも楽しめる秘密基地です。
ちなみに、常設されているアニメーションの仕組みや原理が分かる展示も素晴らしいです。ロボット兵も大迫力です。そして、その月ごとに上映作品が変わる映像展示室があるのですが、僕のおすすめは『めいとこねこバス』(約14分)です。
©Nibariki ©Museo d’Arte Ghibli ©Studio Ghibli
「ルパン三世 カリオストロの城」原作:モンキー・パンチ©TMS
『三鷹の森ジブリ美術館』
TEL:0570-055777(9: 00〜18:00/休館日はのぞく)
開館時間:10:00〜18:00(休館日は毎週火曜。15年12/28(月)〜16年1/2(土)は冬期休館。他、年に数回長期休館があります)
チケット:入場は日時指定の予約制。全国のローソンでのみ販売中。
【「幽霊塔へようこそ展」開催期間】
2015年5月30日(土)〜2016年5月(予定)