クリスマスは家族の行事?
渡辺由佳里(以下、渡辺) 今日は本当にありがとうございます。わたしが帰国するということで、急遽お呼び立てしてしまって。「家族無計画」の連載、楽しみに読ませていただいていました。
紫原明子(以下、紫原) いえいえ、畏れ多くもお声がけいただいて! こちらこそありがとうございます。わたしも渡辺さんの連載をいつも読ませていただいていて、どんな方なんだろうと気になっていたんです。
渡辺 新しく始まった「りこんのこども」もおもしろいです。今回はクリスマスを前に、「家族」をテーマにお話しさせていただくということで……。
紫原 わたしもうだいぶ家族ネタを放出しましたが、大丈夫ですかね(笑)。アメリカの方って、クリスマスをすごく大事にされるんじゃないですか?
渡辺 クリスマスは家族の行事なので、うちは主人がアメリカ人で、その実家に行くというのがいつもの過ごし方ですね。サンクス・ギビング・デイ(※11月末にあるアメリカの祝日、感謝祭)とクリスマスに家族で集まるんですけれど、わたしはだいたい皿洗いの人になっています。
紫原 皿洗い? ……それは嫁としてですか?
渡辺 ええ。わたしは長男の嫁なんです。アメリカではあまり長男だからどうということもないんですが、次男と三男の妻たちはいつもただ来て、さっと帰るっていう人たちなので。わたしは料理も好きなんですけど、よその家のお台所に入り込むのは失礼に当たるかな、と。だから、クリスマスはいつも片づけ係を引き受けているんです。
紫原 向こうでは、クリスマスに恋人同士でごはんに行ったりはしないんですか?
渡辺 しないですね。クリスマスは家族だけ。だから奥さん同士で「クリスマス、大変よねえ」なんて言い合っていて、この時期のスーパーは大混雑です。
紫原さんは、クリスマスはどうされるんですか?
紫原 うちでは毎年、わたしが何かごはんをつくって、家族とケーキを食べるっていう絵に描いたようなクリスマスをやっています。あとは、プレゼント。うちの娘は今小学4年生なんですが、歴史にめちゃくちゃくわしいんです。織田信長が小さい頃に乳首を噛まなかった乳母の名前まで知っていて……。
渡辺 乳母(笑)。それ、すごいですね。オタクの域じゃないですか。
紫原 そうなんです。それだけマニアックな知識があるのに、一方ではまだサンタさんを信じているんですよね。中2の息子はもうサンタがいないことをわかっているから、「ママ、ちゃんとAmazonに頼んだ?」なんて言うんですよ。信じていないくせに、プレゼントは要求してくるっていう。
でも、そういう話をしていると娘は、「だからなんでさっきからAmazonの話ばっかりするの?」って。
渡辺 ふふふ、サンタにもらうプレゼントの話なのにって?
紫原 ええ。本当にわかってないんですよ。わたしが「サンタさんだって注文がいっぱいで翌日に届けられないかもしれないから、プレゼントは大きい工場から届けるんだ」っていうと、「そんなAmazonみたいなこと言わないで!」って(笑)。さすがに小4だから、もうそろそろ本当のことに気づくかもしれないですけど……。渡辺さんの娘さんはどうでしたか?
渡辺 うちの娘は2歳の頃から、サンタはいないってことに気づいているんです。
紫原 ええっ!? 早すぎませんか?
渡辺 デパートなどで、子どもがサンタの膝に乗っておねだりをするようなイベントがありますよね。香港に住んでいた時、それに連れていったんです。そうしたらすごく大泣きして、怖くて怖くて記念撮影どころじゃなかったんです。膝の上でギャーっと泣き叫ぶ2歳の娘をサンタが迷惑そうに見ている。そういう記念写真なんです。
紫原 あははは(笑)。
渡辺 それでわが家ではサンタはいないってことになって。娘本人が「サンタなんているわけない。あれは怖いおじさん」って。わたしと夫も、サンタのふりはしませんでしたね。夫は、「そもそも、性悪な金持ちの子どもにばかり高いプレゼントを与えて、貧乏な良い子には何も持ってこないサンタって変じゃないか」と考える人ですから。
「育ててやる」ではなく「ネタにさせていただく」
渡辺 結局、サンタがいてもいなくても、大事なのは楽しい思い出をつくるっていうことだと思うんです。うちの主人が昔、子育てについて言った言葉ですごくいいなと思ったことがあって。彼は「子供になんの期待もしちゃいけない」って言うんですよね。
紫原 へえ。それはなぜですか?
渡辺 自分が子供と一緒にいることで「楽しい思い出をつくらせてもらっている」ことに価値があるんだから、子供に対してはなんの見返りも求めちゃいけないんだって。娘が生まれた頃からずっと言ってるんです。
紫原 それは素敵な考え方ですね。
渡辺 親に「育ててやった」とか言われると「すみません」って感じだし、老後の面倒を見なきゃ……みたいなどんよりした感じになるんですけど、一緒に思い出をつくって、与えてもらい合っていると思えたら、親も子も楽になると思うんです。自分自身のために楽しい思い出をつくっているんだと思えば、腹が立つことも減りますしね。
紫原 確かに。与えるばかりだと思うとつらいですものね。
渡辺 紫原家ではなにか大事にしていることってありますか?
紫原 そうですねえ。わたしがいつも思っているのは、子供たちが大人になった時に、うちの家族の話をネタとして周りの人にいっぱいしゃべってほしいんですよ。
うちは離婚して父親がいなくなったのでわたしと息子、娘の3人暮らしなんですけど、「うちのお母さんはこんなことやってた」とか、「うちのお父さんはこんなへんな人で」とか。特殊な家族だからこそ、人に話せるネタや物語を見つけて、家族の楽しい思い出もつらい思い出も、うまく昇華していってほしいと思うんです。
渡辺 いいですね、それ。すごくいいと思う。「何があってもネタになる」っていうのはわが家のモットーのひとつです。うちでは必ず夕食を一緒に食べるんですけど、その時の話題は常に「今日あったおもしろいこと」。テストの話とかは一切せず、「今日はなにがおもしろかった?」って。
紫原 ああ、そういうネタにする感覚って本当に大事ですよね。
うちの息子は3歳くらいから「わが家のキラーコンテンツ」と言われ、大きな宿命を背負っているし、最近歴史に傾倒し始めた娘もびっくりするくらいオタク寄りの趣味を持っていて。わたしがこうやって子供たちのことをネタとして話している分、彼らも大きくなった時にわたしのことをネタにしてくれていいし、そうやって仕返しをしてほしいと思います(笑)。
次回「夫婦の愛は、恋愛感情と違うのか?」は12月29日(火)更新予定。
構成:宇野浩志