桃の節句の菱餅、端午の節句のかしわ餅、幼子の誕生日に餅を背負わせ、新築祝いに餅をまくなど、餅は祝い事や祭りに欠かせない食べ物です。なかでも神聖なのが鏡餅。お正月、家に福をもたらす年神様へのお供えです。鏡餅には神様が宿り、それを食べれば神様の霊力が体に入り、生命力を再生できると信じられてきました。
年末の餅つきは、鏡餅をつくるための大切な行事。師走の25~30日ごろに行いますが、29日は「九」が「苦持ち」につながると嫌うことが多く、大晦日についた餅は「一夜餅」といって、こちらも縁起が悪いとされています。餅がやわらかく、鏡餅がつぶれてしまうからです。
今では、スーパーや和菓子屋さんなどでお正月のお餅をそろえるご家庭も多いでしょう。でも江戸時代は、店で買うことはあまり体裁のよいことではなかったようです。餅は各家でつくもので、お正月がせまると、江戸の町には、餅つきの元気な音があちこちで響いたそうです。ユニークなのが「引きずり」という商売です。男が数人、餅つき道具を一式かかえて、頼まれた家にやってきます。臼や杵だけでなく、蒸籠やかまどまで持参し、依頼主がもち米さえ用意しておけば、蒸してついて餅にしてくれました。終われば臼を転がして次の家へ移り、昼も夜もなく餅をついたそうです。
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