いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
いつもバーで聞いた話や、バーにまつわる話を書いてきましたが、せっかくクリスマスが近いので、こんなお話を。
といいつつ、人の「死」にまつわる話なんですが、こういう仕事をしていると普通より沢山の人に出会いますし、バーっていう本音を出してしまう場所ということもあり、人の死についての話をよく聞きます。
先日、編集の仕事をしている青木さんが来店しました。実は青木さんは昨年末に恋人を事故で亡くしていて、僕はそのことを青木さんと仲の良い他のお客様から聞いていました。恋人の方はお店に来たことがなかったので、青木さんにはその話を僕から聞くことはありませんでした。
青木さんはボルドー地方のメルローを飲みながら、少し酔っ払ってこんな話を始めました。
「彼女、イラストレーターだったんですけど、会ったときからもう好みのタイプだって思ったんです」
「そうなんですね」僕はその彼女が亡くなったことを知らないふりをして相槌をうちました。
「それからはなにかと彼女と会うために、僕が編集した本にいっぱい挿絵を描いてもらいました」
青木さんは彼女にどうしても会いたくて、郵送すればいい資料でも、彼女の自宅の近くのカフェで待ち合わせをして渡したりしたそうです。でも、あまりにも頻繁に仕事をお願いして会いに行くうち、罪悪感が芽生えていきました。相手からすれば、仕事のクライアントに言われたら会わざるを得ないだけなのかもしれないと。
そんな気持ちに耐えられなくなり、ある日、彼女にこう言いました。
「美恵さんのイラストはとても素敵だし、こちらの要望にもきっちり返してくれて、仕事相手としてとても信頼してます。だから、どういう返事をもらってもこれからも一緒に仕事をしたいと思ってます。もうバレてるとは思いますが、好きです。美恵さんに、ただ会いたくて、一生懸命、会うための理由を作ってました」
彼女はちょっと驚いたような顔をしたあと、笑ってこう答えました。