—— いよいよ卒業公演が3月28日に決まりましたね。今、率直にどんなお気持ちですか?
高橋みなみ(以下、高橋) 正直、「やっと」という感じですね。年内で卒業すると思っていたんですけど、なかなか決まらなくて。年はまたいでしまいますが、最後の日が決まって、そこに向けてがんばれるので、ひとまず一件落着。
—— 卒業の実感は湧いてきましたか?
高橋 卒業公演の日が発表されるまでは、すっごい複雑な気持ちでいたので、正直さびしさとか感じていなかったです。でも、明確に最後の日にちが出て、AKB48としての活動も12月いっぱいで終わるので、さびしさがやっと見えてきたかなって感じです。
—— なるほど。
高橋 卒業後についても明確に考えらるようになりました。
—— 感傷的になっている暇もなさそうですね。
高橋 はい。せっかく10年間AKB48にいさせていただいたので、最後の句読点、マルをちゃんと打ちたいですね。そこから次の章に行きたいと思っています。
伝えたい事を伝えるために
—— さて、『リーダー論』を読ませていただきました。とっても実践的でした。
高橋 ありがとうございます! あらためて出来上がった本を読んでみて、コミュニケーション、人との携わり方というものに対して、私自身すごく葛藤しながら10年間やってきたなと思いました。
—— 高橋さんの経験にもとづいた、具体例がいっぱいありますね。
高橋 はい。みなさんにとって何かしらのヒントになる1冊になるとうれしいです。
—— 「リーダーの仕事のほとんどは、チームのメンバーひとりひとりとのコミュニケーション」ということがはっきりと書かれていました。メンバーひとりひとりと向き合うことの大切さには、自然と気づいたんですか?
高橋 そうですね、AKB48の活動を通して、ほんとにゆっくり学んでいった感じですね。人との関係って、階段をすっとばしていけることはあまりないなって。もしもその人の心にしっかり伝えたいことがあるなら、その前に踏まなきゃいけない階段がたくさんあると思います。言葉で言うことは簡単だけど、その人が飲み込んでくれるかはすごくむずかしいんです。
—— 高橋さんは、そのむずかしさに直面してきたわけですね。
高橋 はい。伝えたいことを伝えるためには、まず私が相手のことを知らなきゃいけないんです。
—— リーダーがメンバーのことをまず知らなければいけない、ですか。
高橋 はい。そのためには、ひとりひとりと挨拶をかわして、メンバーと何かを話すことで縮まる距離感も確実にあるんだなって、だんだんわかるようになりました。
高橋 言ってはみたんだけど、ぜんぜん変わらないこともあるんです。これは私が言ったことが頭に入ってきていないんだ、心に刺さってないんだ、って。じゃ、どうしたらいんだろう、私だったら誰の言うことを聞くんだろう、と思ったとき……私自身も人の言うことをあまり聞けないタイプなんですよ。
—— そうなんですか?
高橋 私もけっこう頑固なところがあって、自分がこうだと思ったことに対して、何か言われてもあまり聞かないんです。でも、私のことを知ってて、私のことを思って言ってくれている人の言葉なら聞き入れやすかったんです。じゃ、私もそうならなきゃいけないんだ、というのはすごく思いました。
—— 会社でも学校でも、上に立つ人が下の人に何か言って伝わらなかったら、「なんだあいつ」って下の人の責任だって考えることも少なくないと思います。でも、そこで立場を置き換えて考えられるのは、責任感からですか?
高橋 根本はAKB48が好きだということが大きいです。グループを長く続けるためにはまとめる必要があるし、まとめるためにはグループの中で個と個のかかわり合いを深めなきゃいけないと思いました。
—— なるほど! 本の中には「相手の名前を覚えて距離を縮める」という方法も出てきました。名前を覚えるだけでなく、相手のことも調べておくところがおもしろいですね。
高橋 地道なんですけど、これはすごくメンバーが喜んでくれるんです。私は1期生なので、期が離れていたり、チームが違ったりすると、「(高橋さんに)知られていない」と思っているメンバーもいるんですよ。そのときにふと「〇〇ちゃん」って呼びかけたら、だいたい「えっ!」って顔をされます。
—— 社長がちゃんと社員の名前を呼ぶようなものですからね。
高橋 そうですね(笑)。「私はたかみなさんを知っているけど、たかみなさんは私を知らない」じゃダメで、お互いにちゃんと知っていると伝えたいんです。名前を呼んで、「あなたのことを見ているからね」ってことを伝えるのはすごく大きいと思います。
—— ただ、現在はグループ全体で軽く300名を超えています。名前を覚えるのも大変じゃないですか?
高橋 すごく大変です。私が知らないうちにメンバーが増えていることもありますし、ジャカルタのJKTの子たちは名前もむずかしいし(笑)。
—— たしかに!
高橋 この本にも書きましたけど、私の目が一番届きやすい人数は16人。AKB48でいうところの、ちょうど1チーム分なんです。それが300人を超えてしまったとき、個々に向き合うのが私のポリシーでしたが、それがむずかしくなりました。それで、各チームのキャプテンに任せることにしたんです。
—— 高橋さんの場合、2005年から始まった1期生ですよね。だんだんグループが大きくなっていくのと、ご自身の成長がシンクロしていたところが良かったりしましたか?
高橋 それはすごくあります。グループが大きくなってから入ってくると、すごく大変だと思うんです。ダンスにしても、私たちはすごく初歩のレッスンからやれましたけど、今の子は突然難易度の高い曲をいきなりDVDで渡されることもあるので。やっぱりグループとともに大きくなっていけたのは、自分にとってすごい財産だと思います。
—— しかも、人間関係とか、みんなをまとめていくやり方も、いきなり300人を相手にするのと10何人から始まるのではぜんぜん違うでしょうし。
高橋 違いますね。だから総監督の横山由依はすごく大変だと思います。今は1年かけてバトンタッチしていますが、「1年後から300人をまとめなさい」と言われたって、それはとても難しい事だと思います。
—— 『リーダー論』は、やっぱり横山さんに向けて書いている部分はあるのでしょうか?
高橋 そうですね。それは横山しかり、各チームのキャプテンも含めて、メンバーに向けての置き手紙というような気持ちがあります。私が昔悩んでいたことを今悩んでいるメンバーもいっぱいいると思うので、この本を読んだら「自分の悩みは今ここだ」と参考になると嬉しいです。メンバーにはぜひ読んでもらいたいです。
次回「私はそもそも、気合と根性で統率するタイプではない。」は、12/21(月)に更新予定。
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構成:大山くまお ヘアメイク:天野優紀 撮影:加藤浩