NASAの技術者が観る『スター・ウォーズ』〜宇宙に実在するスター・ウォーズの世界〜

12月18日に10年ぶりの新作『スター・ウォーズ エピソード7』が公開。
“頭の先から骨の髄までスター・ウォーズの大ファン”というNASA技術者の小野雅裕さん。
現在の宇宙開発からみて、スター・ウォーズの世界は今やファンタジーで終わらない…?
広い宇宙のどこに実在する、スター・ウォーズの世界について解説します!これを読めば映画も3倍楽しめるかもしれません。
もちろんスター・ウォーズをまだ観たことがない方も楽しめますよ。

実際に宇宙開発をしている人がスター・ウォーズを見たらどう思うんですか、なんて聞かれることがあります。科学的な正確さはないから、技術者が見たらつまらないんじゃないか。そんな意図が質問の裏に隠れています。

どうしてどうして!僕は頭の先から骨の髄までスター・ウォーズの大ファンです。ハロウィーンの日はもちろんダースベーダーのマスクをかぶって出勤しますし、去年はマスクのままプレゼンをして火星プログラムオフィスのお偉方をダークサイドに引き込みました。

ダースベーダーの姿でプレゼンをする小野さん

エピソード7の公開前に妻を教育すべくエピソード1から6までのDVDボックスを買って無理やり見せ、ヨーダは依田さんから名付けられたこと、ルーカス監督が時代劇好きだったのでジェダイが「時代」をもじったものであることなどの(真偽不明な)ウンチクや、なぜ心に潜む怖れがダークサイドに通じるのかという哲学まで、さまざまな教えを垂れたのですが、なかなか聞く耳を持ってくれません。どうも僕のフォースは弱いようです。

たしかに科学的・技術的正確さはありません。でもファンタジーと割り切っているからいいのです。むしろ、どの映画とは言いませんが、中途半端に科学考証にこだわった作品の方が、穴があちらこちらに見えて観ていられません。

それに、宇宙探査が進み、さまざまな惑星や衛星の姿が明らかになるにつれて、スター・ウォーズで描かれているような世界が現実に存在することが、だんだんと分かってきたのです。人間の豊かなイマジネーションは、時として現実の先を行くのです。そこで、明日公開されるエピソード7の予習もかねて、エピソード1から6までの名シーンを振り返りながら、宇宙に実在するスターウォーズのような世界についてお話をしようと思います。(ネタバレはありません!)


双子の夕日とケプラー16b

シリーズで最初に製作されたのがエピソード4。その中でもとりわけ有名なシーンのひとつが、物語の冒頭近くで主人公ルーク・スカイウォーカーが「双子の夕日」を眺める場面です。青年ルークは辺境の砂漠惑星タトゥイーンの農家で養子として育てられています。田舎を出て士官学校へ行き、広い宇宙を飛び回りたいという夢に駆られていますが、なかなか養父が許してくれません。養父との口論の後、ルークは家の外に飛び出し、二つの赤い太陽が砂漠の大地に没していくのを眺めます。タトゥイーンは、連星といって、二つの恒星がお互いを回りあう、さらにその外を回る惑星という設定なのです。双子の太陽が、ルークのいる場所の辺鄙さを印象づけるとともに、彼の心のわだかまりをよく表現しています。また、このシーンで流れるジョン・ウィリアムズの曲も非常に有名で、その後もシリーズを通して度々使われました。エピソード7の予告編でも流れています。

太陽系にはもちろん太陽はひとつしかありません。しかし宇宙では連星は非常にありふれています。太陽から最も近い恒星系で、映画「アバター」の舞台ともなったアルファ・センタウリは、実は3つの恒星がお互いを回りあう三重連星です。冬の第三角形のうちふたつ、シリウスとプロキオンも連星ですし、ふたご座のカストルはなんと6つの恒星からなる六重連星です。夜空に輝く星の半分近くが連星であるといわれています。

そしてこの数年で、タトゥイーンのように、連星の回りをまわる惑星も続々と発見されるようになりました。その例が、2011年に発見されたケプラー16bです。直径は地球の8倍、およそ土星くらいの大きさで、連星の回りを229日周期でまわっています。表面はガスでできていると考えられていますが、ハビタブルゾーンのちょうど外縁にあるので、もし衛星があれば生命がいるかもしれません。もしそうならば、太陽系から200光年離れたこの遠い世界に、双子の夕日を眺めながら夢を抱くルークのような青年がいるかもしれませんね!

ケプラー16bの想像図。奥にある黄色と赤の星が連星。手前にある黒い影がその回りをまわる惑星であるケプラー16b。
画像:NASA/JPL。

火山の星・ムスタファーとイオ


シリーズで最後に製作されたのがエピソード3。そう、スター・ウォーズは最初に4、5、6が作られた後、1、2、3が作られたのです。そのエピソード3のクライマックスで、ダークサイドに堕ちたダースベーダーが、かつての師であるオビ=ワン・ケノービと死闘を繰り広げます。ダースベーダーといえばあの黒いマスクがトレードマークですが、この戦いの前まではマスクはかぶっておらず、普通の人間の姿をしていました。どうしてあんな姿になったのかというと…これ以上書くとネタバレになるのでやめておきますね。

さて、その決闘の舞台となったのが、火山の星・ムスタファーです。無数の火山があり、惑星のほぼ全体を赤く溶けた溶岩が覆う、まさに灼熱地獄です。銀河の辺境に位置するのですが、貴重な鉱物資源があるのでその採取が行われている、という設定になっています。

このムスタファーと非常に良く似た星が、太陽系にあります。木星の衛星のイオです。1979年、木星を訪れたボイジャー1号がイオの表面を撮影したところ、そこには驚くべき世界が写っていました。クレーターが殆どない、黄色やオレンジのカラフルな地表。エベレストより高い山。溶岩が流れたような跡。そして、高さ数百キロにまで吹き上げる噴煙が見つかったのです。その後の探査で、地球の月とほぼ同じ大きさの小さなこの星に400もの活火山があり、表面の殆どは火山から吹き出た硫黄などで覆われていることがわかりました。余談ですが、火山のひとつひとつには世界各国の神の名が付けられており、「アマテラス」「スサノオ」といった日本神話から取られた名の火山もあります。

残念ながらこの星に鉱物の採集場や独立星系連合の秘密基地は見つかりませんでしたが、もしこの星に立ったならば、スター・ウォーズで描かれたムスタファーのような地獄のような世界が広がっていることでしょう。

無数の火山で覆われた木星の衛星・イオ。写真:NASA/JPL

氷の惑星・ホス、緑と水の惑星・ナブー、都会惑星コルサント

スター・ウォーズには他にもさまざまな世界が描かれています。たとえばエピソード5で帝国軍から逃げる反乱軍が秘密基地を築いていた氷の惑星・ホス。その姿は、木星の衛星エウロパや、土星の衛星エンセラドスを連想させます。まさにホスと同じように、星の表面全体が分厚い氷に覆われているのです。

また、エピソード1と2では、ルークの母の出身星である、ナブーという美しい星が描かれています。緑に溢れるこの星はまた、惑星の中心にまで達する深い海があり、そこにグンガン族と呼ばれる水棲の知的生命がすんでいるという設定です。実はエウロパやエンセラドスにも、分厚い氷の層の下に液体の水を湛えた海が存在することが確実視されています。その海はナブーのように惑星の地下全体を覆っている可能性があり、さらにはそこに生命が存在する可能性もあると考えられています。(余談ですが、2001年宇宙の旅の続編である2010年宇宙の旅も名作で、エウロパの生命を扱った作品でした。)

作中で銀河帝国の首都として描かれるのが、コルサントという街です。惑星全体がひとつの巨大な街になっており、宇宙から見ると夜の半球一面に街明かりが見えます。宇宙ステーションから帰還した星出さんは宇宙から撮った地球の美しい写真を度々ツイッターにアップしていましたが、地球の街や高速道路の明かりは宇宙からもはっきりと見えます。もちろん地球は全体が街に覆われてはいませんが、そんな写真を見ると作中のコルサントを連想します。そしてまた、無数の光のひとつひとつの中に、家族がいて、カップルがいて、子どもがいて、夜空を見上げる人がいる。僕自身もそのひとつなのだ。そんな感慨が沸いてきます。

表面全体が氷で覆われた土星の衛星・エンセラドス。写真:NASA/JPL

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宇宙人生—NASAで働く日本人技術者の挑戦

小野雅裕 /小山宙哉

世界で唯一、太陽系の全ての惑星に探査機を送り込んだ機関があります。それは、NASAのJPL(ジェット推進研究所)という組織。そんな宇宙探査の歴史を切り拓いたともいえるJPLで働く技術者・小野雅裕さんが目指すものとはーー。『宇宙兄弟』ス...もっと読む

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コメント

AIESEC_Meiji 【キニナル】 https://t.co/Br2AVlDxWQ https://t.co/tqH2xJficR 約4年前 replyretweetfavorite

ccchishima "宇宙では連星は非常にありふれています。夜空に輝く星の半分近くが連星であるといわれています" 約4年前 replyretweetfavorite

telstar_news "双子の夕日とケプラー16b"など 約4年前 replyretweetfavorite