「26歳・女性」の投票理由
コブクロの大きくないほう・小渕健太郎は2008年から2012年にかけて5年連続で「結婚したいアーティスト・男性部門」(レコチョク)の1位を獲得している。その時の投票理由のサンプルがやたらと具体的だったとの記憶を辿ると、該当ページがまだ残っていた。「『優しいだけじゃなく、どんな試練に立たされても、前向きに乗り越えていく強さもあるし理想の男性です』(26歳・女性)など、温厚な性格に加えて、爽やかで優しい笑顔に多くの支持が集まった」とある。数年間は付き合っていたのではないかと思わせる「26歳・女性」の投票理由。「だけじゃなく」「立たされても」「強さもある」と、彼女が用意したいくつかのハードルを飛び越えてきたのが彼だったらしい。課題設定と達成がそれぞれ「26歳・女性」の頭の中だけで済まされているわけだが、この手の回答を妄想癖だと笑うだけではいけない。
「恋人にするならば誰それだけど、結婚するならこの人かな」という安っぽいネタは、さすがにそろそろ帰ろうかという雰囲気になってきたファミレスでの雑談を全国各地で再稼働させてきたが、有名人を査定しようとする機会において、もはや、この手のシンプルな仕分けだけでは事足りなくなってきている。誰かに一票を投じるとなれば、こちらで設定した様々なハードルにこの人は耐え得るだろうかと推し量るようになった。あらゆるジャンルの芸能人が、視聴者を突き放す芸風よりも歩み寄る芸風を選んでいるのは、受け取る側の私たちの査定がすっかりシンプルではなくなってきたことと無関係ではない。「26歳・女性」のように、それぞれが用意した多層性を切り崩してこそ、気に入られるのである。
「好きな女子アナ」の安っぽさ
女子アナは「美人なだけじゃん」or「そんな美人でもないじゃん」という理不尽な査定を下され続けてきたわけだが、当の女子アナは、いざ本音トークをお願いしますと頼まれると、それらの「じゃん」には答えずに、「私たちは普通のサラリーマンなのに、どうしてこんなに……」と代わり映えのしない愚痴を揃えてきた。外からの理不尽な査定と当人の愚痴に共通するのは、双方ともにやたらとシンプルであること。なかなか七面倒くさい議論にはならないのである。
「好きな女優・アイドル」と「好きな女子アナ」を比べて後者のほうがファミレス的な議論になりやすいのは、アナウンサーが女優・アイドルよりも下だから、という話ではなく、構造としてどこまでもシンプルだからである。物語をたくさん背負わされているアイドル等と比べ、本当は多層性が投じられていたとしても、あっちから複雑な苦悩を表出させてこない安堵がある。だからこそ、査定が安っぽくなる。その安さは、投じる側の勝手でしかないのだが、その勝手を咎める人がいない環境が続き、安直な投票行動が反復されるのだ。
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