東京都内で開業するある税理士は今でも忘れられない光景がある。
税理士の古くからの顧客であった建築会社の経営者が死去し、その日は親族の集まる会だった。
亡くなった経営者の生前の意向は、会社経営を引き継いだ長男に財産も引き継がせるというものだったが遺言書はなかった。すると、「子供が私立の中学に入学するからお金が必要」と、次男の妻が取り分を主張し始めたのだ。突然の横やりに、議論は紛糾。言い争いは過熱し、妻同士の殴り合いから、さらには蹴り合いに発展した。
その後、泥沼の訴訟となり、「兄弟はその後、二度と口を利かなくなった」(税理士)という。
近年、税制度の変更や価値観の変化により、相続や贈与でトラブルになるケースが増えている。そして、そのことに無関心を決め込むことはできない。
なぜなら、「お金があるから相続でもめる」と思い込むのは間違いだからだ。2013年版司法統計によると遺産で争った裁判で、遺産額が「5億円以上」のケースはわずか0.5%で、「5億円以下」は6.2%、「1億円以下」は12%と少数派なのに対し、「5000万円以下」が42.7%、「1000万円以下」が32.3%と、数千万円以下の規模で訴訟となった例が75%になるのだ。
これは土地や建物も含んでの数字だから、せいぜい財産は一軒家といった一般の人たちが争っている姿が浮かんでくる。
一方で相続税が増税され、支払わなければいけない対象エリアが拡大してきているから頭も痛い。
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