キョウカともう一人のパパ 後編 —大人って複雑で、難しい。

親の離婚を子どもたちの視点からお送りするストーリー(連載のくわしい成り立ちは序章をお読みください)。第3話は、キョウカ(小5)の場合。物怖じしない性格で、近所の大人たちともすぐに仲良くなってしまうキョウカは、ある日、知り合いのお医者さんに「血液型を調べてあげるよ」と言われたことがきっかけで出生の秘密を知ることになって……。前編も公開中です。

その日の夜、パパはいつものように夜10時過ぎに、絵画教室の仕事から帰ってきた。
いつものように、おかえりなさい、とキョウカが声をかけ、ただいま、とパパが答える。いつもと同じなはずなのに、何かが昨日までとは大きく変わってしまった気がした。たくさん泣いて、目を腫らしたキョウカは、昨日までのようにパパの顔を直視できなかった。

……ところが直後に、着替えのために寝室に入ったパパが、大きな声でキョウカを呼んだ。

「キョウカ、ちょっと来い」

ドキッとした。パパと、”あの話”をするのだと思うと、体がこわばった。それでも行かないわけにはいかない。急いで寝室に向かうとパパは、猫のトイレの前で、怖い顔して仁王立ちになっている。
「……あ」
キョウカが思わず声を上げると、「あ」じゃないだろ、とパパが凄む。何しろ今日は色々あったものだから、キョウカは自分の仕事である猫のトイレ掃除を、すっかり忘れていたのだ。

「おい。キョウカの仕事なんだから、ちゃんとやれよ」
声を荒ぶらせるパパ。まずい。すごく怒っている。
「ごめんなさいごめんなさい、今すぐやります」
キョウカは早口で言うと、掃除用のスコップを手に、トイレの中の砂をかきわける。砂の中に埋もれている猫のフンを拾い集めるのだ。

主にキョウカの強い一存で猫を飼い始めて約半年。任されているトイレ掃除にも随分慣れた……と、自分では思うものの、神経質なパパの合格点にはなかなか到達しない。
「キョウカ、砂こぼれてるだろ……おい、落とすなよ~。もういい、ちょっと貸して」
キョウカのぎこちない手つきを見かねたパパが、耐え切れないといった様子で、キョウカに代わってスコップを手にする。

キョウカは、そんなパパの様子を、側で正座してじっと見守る。

かつては絵を描く傍ら、ママの作るお洋服のモデルもやっていたらしい。パパは、色が黒くて、目が細くて、すっと細い鼻筋が、途中から少しカーブしている。それに、どちらかといえば筋肉質で、背も高い。
一方キョウカは、どちらかといえば色白で、目は二重で、鼻先はパパより少し丸い。背も、クラスで前から3番目くらいで、そんなに高くない。一つ一つ比べていくと、パパとキョウカは全然似ていないような気がしてくる。キョウカちゃんはパパ似だねって、これまで何度も言われたことがあるのに。

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りこんのこども

紫原明子

いまや「よくある話」になっている離婚問題。大人の事情で語られることは多いけれど、親の離婚を体験した子供たちは、何を考えているのでしょうか。自身も離婚を経て二人の子供を育てているエッセイストの紫原(家入)明子さんが、子供たちの思いや現代...もっと読む

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コメント

consaba 「一つ一つ比べていくと、パパと 2年以上前 replyretweetfavorite

itocchi_k 『そんなこと本当はとっくに知っていても、ただ、確認したかっただけなのだ。』 2年以上前 replyretweetfavorite

akitect 「りこんのこども」昨日の前編に続いて、後編が更新されました。 2年以上前 replyretweetfavorite