7割近くの人が親にストレスを感じている
AさんやBさんのように、家族問題、とりわけ親との関係に悩んで「親に疲れた症候群」に陥っている人は、性別や世代を問わずに増えているのではないか——。
そう考えた私は、オンライン書店・株式会社ブークスの協力を得てアンケートを実施した。同社の運営するインターネット書店の会員を対象に、ネット上で「親(実親)との関係」についてアンケートを行うと、2015年9月14~16日のわずか3日間で777人もの会員から赤裸々な声が寄せられた。
回答者の内訳は、777人中男性が411人、女性が366人と男性がやや多いものの、ほぼ男女均等に意見を聞くことができた。
年齢は30~50代が全体の約85%を占め、親に疲れた症候群が最も危惧される中年層の親に対する意識を浮き彫りにすることができた。
既婚者は472人、未婚者は305人、子どもがいる人は386人、いない人は391人と、配偶者や子どもの有無という回答者の属性についても、偏らずに意見を集めることができた。
ネット調査は匿名性が高いため、その信ぴょう性に疑問を呈する向きもあるが、アンケートに回答をいただいた層は私が意見を聞きたかった層とおおむね一致している。また、質問内容も親に対するストレスが中心なので、ネット調査のほうが本音をより反映するのではないかと私は思う。
この調査は本書の執筆のために実施したもので、学術的な調査ではないが、今まで多くの研究をしてきた私にとっても、示唆に富んだ意味のある調査だったと思う。アンケートでは12の質問に加え、親に対する悩みや印象的なエピソードについて自由記述形式で答えてもらった。
各質問に対する回答結果を紹介しながら、私の感想や分析を述べていこう。
【Q1】親に不満やストレスを感じますか?
全体で約3分の2の人が親に不満やストレスを感じ、男性では60%、女性では70%と、女性のほうが不満を持つ人が多い傾向にあることがわかった。ただし、結婚や子どもの有無による差は小さかった。
この結果から、読者の皆さんには「親に不満やストレスを感じることは、なんら異常なことではなく、当たり前にあることだ」と思ってほしい。
【Q2】不満やストレスを感じる原因はなんですか?
全体として、過干渉や依存といった精神的な問題が多く、年齢が高くなると親の介護問題も同じくらいストレスを感じる要因となっている。
男女で著しい差が見られた項目は、「親からの暴力、暴言」「親の依存」「兄弟姉妹との扱いに差がある」だ。これはおそらく、女子は門限があるなど親から厳しくしつけられ、男子はいくらか大目に見られて育った人の多いことが原因ではないかと推測される。
女性のほうが親に不満を持つ人が多いのは、親からの待遇が、息子と娘で差があるためかもしれない。
容易に推測のつくことだが、未婚者では「親の依存」や「親との同居生活」に悩む人が既婚者より多かったが、子どもの有無による差は特に見られなかった。
【Q3】そのストレスは、どのように処理しますか?
全体的に「理解してもらえないのであきらめる」という対応が多いが、その反動として、自分の子どもには同じ思いをさせないように気をつけようとしている様子がうかがえる。その傾向は、特に女性に強かった。
既婚者や子どもがいる人では、当然のことながら配偶者に愚痴をこぼせる一方、子どもへの配慮が見られたが、未婚者では我慢する傾向が強く見られた。
「縁を切って連絡を取らない」という強硬手段に出た人は、親に不満を感じている人の5.5%と、対応策として最も少なかった。
【Q4】親へのストレスが原因と思われる心身の病がありますか?
全体の28%、つまり親に不満を感じている人の約半分に、ストレスが原因と思われるさまざまな症状が現れている。症状別に男女の比率を見ると、大半の症状はおおむね女性に多いが、高血圧や不眠は男性に多いようだ。
選択式の質問では、実際に治療を受けているかどうかまでは尋ねなかったが、自由記述のコメントには、カウンセリングや通院治療を受けているとの声もあった。
親との問題に限らず、ストレスが原因で起こる心身の不調は、うつや不安障害などの精神疾患のほか、頭痛、耳鳴り、めまい、ほてり・のぼせ、冷や汗、動悸・息切れ、不整脈、高血圧、不眠、腰痛、胃痛、頻尿、下痢・便秘、過敏性腸症候群など、さまざまである。自律神経失調症や更年期障害、慢性疲労症候群などと診断されることもある。
男女とも、中高年になるとストレスにめっきり弱くなるため、心身の不調が現れやすい。通常の治療を受けてもなかなか症状が改善しない場合や、親と接した前後に症状が頻発する場合は、親へのストレスが原因と疑い、適切な治療を受けることをお勧めする。
【Q5】親に対して「いなくなってしまえばいい」と思ったことはありますか?
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