天国へ続く門を手漕ぎボートで進む「高千穂峡」

いよいよ目的の高千穂峡手こぎボートにたどり着いた宮田珠巳さん。さまざまな表情を見せる高千穂峡の絶景に息を飲みます。ゆる旅エッセイ人気シリーズ第3作『日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編』からの短期連載第3回。宮崎高千穂を旅する著者と担当編集者。ほぼ徹夜で夜神楽を見物した翌朝向かったのは、長年の憧れ、手漕ぎボートの聖地!

 さて、倒れこむようにして朝6時に眠り、10時起床。

「よく眠れましたか」

「眠ったような気もしますし、眠ってないような気もします」

昨夜9時から12時まで寝ているので、計算上は計7時間寝たことになるが、そう都合よくテキパキ眠れるものでもなく、たぶんその半分も熟睡できていない。

 そんな頭でレンタカーを借り、高千穂峡へ向かうことになった。

「でも昨日昼間休んでおいてよかったです。あれがなかったから、夜神楽は起きてられなかったです」

 テレメンテイコ女史が言った。

 いかに私の配慮が役立ったかを物語るコメントである。そこまで考えて私は午後便のバスに乗ったのだ。真相はそういうことなのだ。

 今回の旅の最大の目的地である高千穂峡までは、すぐだった。山かげの、道路がくねくねと曲がった狭い場所に駐車場があり、観光客がうろついていた。最大の目的地にしては少々せせこましい。

 駐車場の脇から下へ下りる仮設の階段があって、下りきったところがボート乗り場のようだ。周囲を見晴らせる場所がなかったので、渓谷の全体像が把握できないまま、われわれはボートに乗り込むことになった。

 ボート乗り場は、幅にして50メートルほどの川の隅に設置してあり、上流には断崖に挟まれた谷が、門のように立ち塞がっていた。下流はやや広い瀬となって岩が露出し、ロープを張って行けないようにしてある。流れはゆるく、ボートに乗るにはちょうどいい環境だ。

 鴨がたくさん浮かんでいて、ワーハッハと笑っていた。

「テレメンテイコさん! 鴨が笑ってます」

「啼いてるんですよ」

「笑ってるように聞こえます」

 こんな啼き方の鴨は初めて会った。観光客がたくさん来て、エサをくれるから笑っているのだろうか。

 私はゆっくりと上流の門のほうへ漕いでいった。

 果たしてこの門の先にどのような世界が待っているのか期待が高まる。長い長い年月を経て、ついにここにやってきた。

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日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編

宮田珠己

脱力系エッセイの名手にして、巨大仏・ウミウシ・迷路旅館などヘンテコなものの目利きとして知られる宮田珠己さん。新刊の旅エッセイ『日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編』でも、その独特な選択眼に思わずくすりとさせられます。宮田さんが最近、注...もっと読む

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コメント

meg_pee あとで読む 4年以上前 replyretweetfavorite

Rudy_Rudy_ https://t.co/pTVTYbfyny 4年以上前 replyretweetfavorite