失敗、コンプレックス…いまだから話せる爆発的ヒットの裏側とは?【前篇】

愛されて累計600万部超の大人気シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延さんと、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が絶好調(60万部突破!)な七月隆文さん。互いを知り尽くしたふたりが初めて赤裸々に語ったこれまでのこと、そして大ブレイクのきっかけとは――!? 5時間に及ぶ対談を前後篇でお届けします!

*七月隆文さんの最新作「天使は奇跡を希う」をnoteで絶賛公開中! 併せてお楽しみください。

初めて会ったときから、三上さんはむちゃくちゃ面白い人だった

三上延(以下、三上) 最初に会ったのはデビューしたばかりの頃だよね。僕が2002年に『ダーク・バイオレッツ』という作品を出して。

七月隆文(以下、七月) 次の年に僕が『Astral』でデビューした。同じ電撃文庫というレーベルだったし、編集部主催の忘年会でお会いしてすぐ仲良くなった。三上さんの話は当時から抜群に面白かったんですよ。「最近、何してるんですか?」「江戸時代の古文書にハマってて」とか。「は?」みたいな(笑)。

三上 あったね。古文書講座に通ってた頃だ。

七月 その次会ったら、すっかり講座の中心の人みたいになってるし、一事が万事その調子で、三上さんは興味を持ったらとことん追うし、知識もすごい。何のマニアでもオタクでもない自分がほんとコンプレックスでしたよ……。

三上 作家がマニアである必要ないから。

七月 でも『ビブリア古書堂の事件手帖』(以下『ビブリア』)シリーズはまさに、三上さんの、古書に対する愛とか造詣がそのまま形になったものですよね。

三上 もちろん創作ではあるけどね。

七月 実は僕たち、こういう自分たちの小説の話、いままで一度もしてきてない。大晦日に吉祥寺の狭い飲み屋で飲み明かしたり、アパートで手料理作ってもらったり、そういうことはさんざんしてきたけど、なんとなく訊きそびれてきたことがいっぱいある。せっかくだから今日はいろいろ聞かせてもらいたいなと思って。

三上 なんか、照れますね(笑)。

七月 デビュー以降、自分のスタイルを貫き通して『ビブリア』という代表作が生まれた三上さんと、試行錯誤していろんな方法を試していまに至る僕。けっこう対照的な道を歩んできたんじゃないかと思うんです。作家としての方向性という意味でも、真逆といっていいですよね。

三上 それはそうかもしれない。


三上さんを見習ってやったこと

七月 僕、自分のことを「フィールドワーク型」だなと思うんですよ。とにかく現地に行ってみて、思いついたことや経験したことをどんどん書く。

三上 七月くんは体験の反映のさせ方がすごいよね。その場に行かないとわからない話を掬い上げるのがほんとうまい。『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(以下『ぼく明日』)も、かなり自分の体験、入っているんでしょう?

七月 ドバドバ、入ってます。

2014年8月に刊行されて以来 口コミで一気に広がった『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

三上 それはどの程度? 登場人物にモデルがいるとか、エピソードが実体験とか。

七月 人物でいうと、ヒロインの愛美以外、全員実在します。美大のマンガ学科に通っていたことや、住んでいたアパートの場所、動物園でのクロッキーまで、エピソードもけっこうな割合で実体験です。

三上 すごいな! 俺、全然そこまでやってないよ……。

七月 三上さんに学んだんですよ。『ビブリア』は、三上さんが自分の人生の一部を詰め込んだからあれだけ面白くなった。やっぱり、何かしら自分を入れたほうが強い、と。

三上 でも、苦労したでしょう。自分の体験をエンターテインメントにするのって本当に難しい。

七月 大変でした。客観視できないから、エンタメに昇華できてるのかどうかが判断できない。でもそこは、自分はライトノベルで経験を積んできたじゃないかと、培ってきたバランス感覚があるじゃないかと、それで思い切った感じです。

三上 なるほどね。僕はどうしても、物語や人物を自由に動かせなくなるんじゃないかという恐怖があって、踏み出せない。少なくともキャラクターとエピソードは分離させるようにしていて、実体験や見聞きしたことをバラバラに分解して、組み合わせる。『ビブリア』でいえば、古本屋でバイトしてたときの体験、たとえば買い付けに行ったら家の中からピアノの音が聞こえてきて……とかそういう小さなエピソードは盛り込んでいるんだけど。

七月 藤沢のアパート、2巻の第3話『UTOPIA 最後の世界大戦』で出てきたあそこは実在ですよね。あ、三上さんが昔住んでた部屋だ! って嬉しくなった。

三上 そうそう。あのときは時間がなくて、新たに取材に行く余裕がなかったんですよ。本に油の匂いが染み付いているとか、本の背が日に焼けてるとか、あのへんは全部実話、そして部屋の住人は僕自身です。唯一自分を登場させたところですね。

七月 映画監督でもいましたよね、必ずどこかに自分を登場させるひと。

三上 ヒッチコックですね。でもほんと、それは良し悪しで、現実に引きずられて物語の枠が歪んでしまうんじゃないかっていう怖さが常にある。

七月 それはありますね。それに、全作品に対してこんなことをしてたら身がもたない。僕も本当にしんどかった!


文芸誌と「note」、それぞれの場所で同時に始める連載

三上 今度、『別冊文藝春秋』で連載始めるんでしょう。ネットで無料公開とか思いきったことやるみたいだけど、どんな話なの? *七月さんの新連載「天使は奇跡を希(こいねが)う」は、noteと電子文芸誌『別冊文藝春秋』、ふたつのメディアで同時に連載していきます!

七月 教訓を生かして……最近は、担当編集者さんの人生を取り入れるってことを学んだんですよ。

三上 なるほど(笑)。

七月 いま言った怖さみたいなものはあるけど、やっぱり誰かにとって縁のある場所だったり、思い入れのある体験だったりというのは、強い。作品の強度をあげてくれるような気がするんですよ。だから、先日出した『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』にも、担当者さんの体験がみっちり詰まってる。

三上 確かに、現実を持ち込むのは諸刃の剣で、歪みを呼びやすい反面、リアリティが生まれたり、共感を呼びやすいという面もある。七月くんの作品には確かにそういう魅力があるよね。

七月 そうだといいな、と。今回の作品、タイトルは『天使は奇跡を希う』というんですが、これは担当さんの子どもの頃の思い出を聞いてて、「あ、いいね!」と思ったのが最初なんです。愛媛県今治市という、瀬戸内海に面した港町で、転校生だった彼女をクラスメイトたちは歓迎してくれた。タオルの製造や造船、みかんの栽培、そういう地元の産業に従事している家庭の子どもが多くて、いろんな世界を見せてもらう。瀬戸大橋やしまなみ海道という名所もあって、東京育ちの彼女にはかけがえのない時間だった、と。聞いてるだけでキラキラと風景が見えるようで、よし、行ってみよう! って。

三上 偶然だけど、僕も去年遊びに行ったんですよ、今治。あそこはいいよね。しまなみ海道のサイクリングコースを自転車で走ったりしてね。

七月 橋から見える瀬戸内海がまた絶景なんですよね。

三上 そこに天使が現れるわけだ。というか、冒頭だけ読ませてもらった感じだと、なんとなく『ぼく明日』のヒロインを思わせるような、タイプは全然違うんだけど、“よく考えてる”女の子が出てくる。

七月 そう! そうなんですよ。彼女の行動には秘密があって。それがわかったときに読み方も変わるという、そういう構造上の仕掛けも楽しんでもらえたらいいな、と。

三上 『ぼく明日』ファンにも喜んでもらえそうだね。そういうのは意識した?

七月 というより、自分の作り方の癖というか、将棋でいうところの打ち筋みたいなものなのかな、と思ったりしてるんですが。あとは「時間」を扱うのが好きかもしれない、と自分では思ってますね。三上さんはどうですか、そういう自分の作法みたいなもの、何かありますか?

三上 うーん、あ、最近、おまえの小説には夕方の部屋がすごく出てくるなって、友達に言われた(笑)。

七月 夕方の部屋ですか(笑)。

三上 まったく自覚してなかったんだけど、言われてみれば、夕焼けに染まった部屋が、何度も出てきてた。たぶんそれは、原風景みたいなものなんじゃないかな、と。


僕には、普通の学園生活が書けない

七月 あと、新刊を拝読してて、三上作品の共通点について思ったことがあるんですよ。

三上 読んでくれたんだ。

七月 もちろんです、『江ノ島西浦写真館』。『ビブリア』後、初ですよね。

2015年12月15に出たばかりの新刊『江ノ島西浦写真館』

三上 そうそう。久々の新刊です。一応話すと、主人公・繭は、写真家を目指していた女の子で、彼女が江ノ島にある、祖母がやっていた写真館の整理にやってきて……という話です。

七月 繭はもう写真を撮らない、そこには過去の事件が影響してて、という。栞子さん(『ビブリア』ヒロイン)にとっての本のように、繭にとって写真というのは特別なものなんですよね。同時に愛憎相半ばするものでもあって、なんとなく『ビブリア』と通底するテーマも感じるし、一方でまったく、これまでの三上作品にはいなかった新しいキャラクターも描かれていて、おお、と思いました。

三上 それはどのへん?

七月 琉衣ですね。繭の幼馴染として登場する彼の人物像がすごく新鮮でした。繭と琉衣のドラマが語られる第二話が本当に面白くて。あと、繭が抱えるトラウマ……過去の痛々しさが語られるところなんかはもう、身につまされて読めないぐらいでした。

三上 よかった、そう言ってもらえるなら。

七月 自意識過剰で、身の程知らずで……。

三上 あそこはもうさらけ出すというか、みんなにも痛いと思ってもらえるようにって。二十代の前半とかもうすごいじゃないですか、自意識が。

七月 三上さんにも覚えがあったりするんですか。

三上 あたりまえですよ。

七月 自分のこと天才だと思ってた?

三上 思ってたよ、二十八まで思ってた。

七月 けっこう長い(笑)。僕も学生の頃は、「俺、天才」ってメッチャ思ってた。

三上 自分が天才だと思っていい時期もあると思うんですよ。天才じゃなかったら、そのとき考えればいいんだから。

七月 そう、確かにそう(笑)。でもこの作品では、そういうふうには割り切れない。それで、さっき言いかけた、三上作品の共通点の話ですが、何かに執着するあまり他のことを疎かにしてしまう、どこか欠落した人間という存在がいますよね。今回もそういう人物が出てくる。

三上 ああ、そうかも。

七月 『ビブリア』でいえば篠川姉妹のお母さん、『モーフィアスの教室』でいえば先生のような、冷酷な大人が。三上さんてほんと、ゾッとさせるのがすごくうまいんですよね。人の怖さを書くのがうまい。こういう存在が出てくるのは、三上さんにとって必然なんでしょうか。

三上 意識してなかった……。でもそうかもしれない、うん。もしかしたら、僕のパーソナリティに近いのかもしれない。自分の一部を増幅させて生まれたキャラクターというか。こういうふうになってはいけないという恐れ、あとは戒め。そういうものが悪役として出てきているのかもしれない。七月くんはそういうの、他にもある? 自覚している自分の癖。

七月 僕の場合あとは主人公たちの掛け合いですかね。必ずボケとツッコミみたいなことをしないと不安になるんですよ。読者が飽きちゃうんじゃないかって。それでキャラクターにいっぱいしゃべらせちゃうの。三上さんは逆ですよね。

三上 僕はしゃべらせるほうが苦手。断然、黙ってる場面のほうが得意ですね。

七月 そこが面白いですよね。

三上 そうだね、うん。七月くんと僕の、最大の違いはそこかもしれない。

七月 あと、三上さんは資料に当たるときの情熱がすごい。精神力というか。さっき僕、自分のことを「フィールドワーク型」といいましたけど、三上さんは完全に「デスクワーク型」ですよね。

三上 ああ、そうねそうね。

七月 「黙ってデスクワーク」の三上さんと、「喋ってフィールドワーク」の僕。

三上 うん、言われてみればその通り。

七月 あと僕は、三上さんが、極度の人見知りで他人とまともにコミュニケーションが取れないっていう子を本当に魅力的に書くでしょう、それがうらやましくて。

三上 それはあれだね、俺が持ってる、七月くんが書く「学園生活」への憧れと一緒だね。僕は自然な学園生活というものがどうしても書けない。
 あと、七月くんは、日常の流れみたいなものを書くのがものすごく上手。ちょっとした、たとえば学校帰りにどこかに寄ったり、家に帰って食事したり、そういう何気ないシーンを書くのがうまい。そういうシーンでつないでいくのって作家としての力量がないとできない。

七月 うわ、なんか恥ずかしい……。

三上 ほんとね、アホみたいな感想で申し訳ないんだけど、新作の冒頭読んでね、普通の教室の、どこにでもいるような男の子と女の子を、なんでこんなにいい感じに書けるんだろうって感心してしまった。

七月 三上さん……僕、今夜はいい夢が見られそうですよ(笑)。


*後篇につづく/2015年12月24日更新予定

撮影:榎本麻美



天使は奇跡を希う|七月隆文|note

江ノ島西浦写真館
江ノ島西浦写真館

別冊文藝春秋 電子版5号 (文春e-book)
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この連載について

ビブリア古書堂』×『ぼく明日』、メガヒット誕生秘話

三上延 /七月隆文

愛されて累計600万部超の大人気シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延さんと、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が絶好調(60万部突破!)な七月隆文さん。おふたりはなんと同レーベルから同じ時期にデビューした10年来のお友達。...もっと読む

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コメント

AFFySXOItcFj2UU @hasidream 脚本構造としては分かるんですが内面を掘り下げたパート2などは絶対書けないだろうから、これで食べていけるのだろうか(余計)と思いました……。作者は実体験を元に書いているらしいのですが。。。 https://t.co/Qb44uhCC14 4年弱前 replyretweetfavorite

syuh 七月隆文と三上延の対談、そういや二人とも電撃文庫でデビューしたんだよなー。 https://t.co/gyBdO1iV4Y 4年以上前 replyretweetfavorite

toshiyk 知りたいタイプの裏側ではなかった 4年以上前 replyretweetfavorite

chaosbrave 後で読む。 4年以上前 replyretweetfavorite