時間にルーズな人、厳しい人、世の中にはいろいろな人がいます。
時間に厳しい人にとっては時間にルーズな人は許せない存在でしょう。
そして時間にルーズな人にとって、時間に厳しい人は、
うるせぇなぁ
程度の存在でしょう。
よく、時間にルーズな人を戒める言葉として、
他の人に迷惑がかかる
他の人の時間を使っている
などがありますが、これは時間にルーズな人にとって何も効果がありません。だって、時間にルーズな人は他人の時間なんてどうでもいいんですから。
これは甘えでもなんでもありません。時間を守ったとしても「うれしいこと」がないので守らないだけです。
そして、守らなくても自分はその程度の人間だと、自分自身を裏切ることに慣れてしまっているのです。
このような人間に、時間を守れないのは意志の力が弱いからだと責めても、全く意味がありません。それどころか、逆にますます遅刻するようになります。
なぜなら、責められたことで、「時間を守らなければならない」という強制感を覚え、困ったことに、彼らはその約束に対してより一層逃げる姿勢をとるようになってしまうからです。
こうして、どんどんどんどんと時間以外の事柄にもルーズさが広がっていき、周囲の人の信頼も落とし、自己嫌悪を広げていく、これが社会人ガバガバ病の正体です。
では、時間が守れない人はどうすればいいでしょうか。
それは時間を守ることへのメリットを探すことです。周囲への信頼回復とかそういったことではありません。
「時間を守る」という自分自身との約束を守ることで、「自分自身」が何を得ることができるのか考えることです。
時間に厳しい人は、時間を守ることが最優先事項になっているわけではありません。
時間を守ることで「自分が得られるもの」を、知らない間にわかっているのです。
陽太「え~、自分自身への約束ですか?」
ずんずん先生「馬路手課長は毎朝7時半に来てるでしょ? それはなんでだと思う?」
陽太「あの人は仕事が好きで好きでしょうがないだけですよ。1分でも長く仕事をしたいんです。だから……」
あっと陽太は気がつきました。
陽太「そういうことですか?」
ずんずん先生「そうよ」
こくりとずんずん先生はうなずきました。
ずんずん先生「馬路手課長が毎朝7時半に頼まれてもないのに会社に来るのは、仕事に対する情熱があるからよ。今日という一日、自分のベストな仕事をしたい。その前準備をするために、毎朝人より早く来ているの」
陽太「え~、僕はそこまで仕事に情熱を注げませんよ。毎朝9時に来るのもいっぱいいっぱいなのに8時に来るなんて……」
河合さん「私は毎朝8時に来てますよ」
陽太「えっ」
陽太は驚きました。
陽太「なんでそんなに早く来てるの?」
河合さん「だって色々やることがありますし」
陽太「し、知らなかった……」
確かに河合さんはいつも自分より早く会社に来てるような気がしてたけど……。
なんだか陽太は自分が情けなくなりました。
陽太「ねぇ、河合さんがそんな風に毎朝8時に来る理由ってなんなの」
河合さん「……」
河合さんは少しためらったように続けました。
河合さん「……早く仕事で成果を出して、本社に帰ることですね」
陽太「……」
河合さんは提携先の外資系医療器具メーカー「ウンタラサイエンティフィック」からの出向者です。河合さんが言う本社とは、この提携先のことでした。
そうか、河合さんは本社に帰りたいんだ。
そんな当たり前のことに、陽太は今初めて気がつきました。
提携先の泥臭い日系企業より、六本木にオフィスがあるピカピカした外資系企業で働くほうがいいに決まってる。
陽太はそれを考えると少し寂しくなりました。
陽太「……僕は情けないな」
そう言って、陽太はため息をつきました。
陽太「毎日毎日なんとなく会社に来て、課長のような情熱もなければ、河合さんのような目的もない。仕事が嫌だって思ってるからぎりぎりにしか会社に来れないんだ」
ずんずん先生「ようやくわかったようね」
ずんずん先生は微笑みました。
ずんずん先生「それが自分との約束よ。自分が何をしたいか、何を得たいかがわかっていれば、それを果たすためにやらなきゃならないことも見えてくる。時間を守るなんて二の次よ。本来、そんなところにエネルギーを使うもんじゃないのよ」
陽太「先生……」
陽太は浮かない顔で頬づえをつきながらつぶやきました。
陽太「僕は、何がしたいんでしょうね……」
ずんずん先生「それを探すために、毎朝8時に来るのもいいんじゃない?」
陽太「ええ~!」
陽太は口を思い切りへの字にしました。横をちらりと見ると、河合さんが無表情のまま注文した大盛のパスタをもりもりと食べていたのでした。
次の日のことです。
陽太「おはようございます~」
朝の8時に渋々と陽太はやってきました。
馬路手課長「おぉ、出来内、早いな」
と、すでに来ていた課長が言いました。
あ、あんたが来いって言ったんでしょ……!
わなわなと震えつつも、言えない陽太です。
席に着くと、少し遅れて河合さんがやってきました。
河合さん「出来内さん、早いですね」
そう言って、河合さんは微笑みました。
いつもは無表情な河合さんがそんな風に笑ってくれるとは思わなくて、陽太はちょっとポッとしました。
うぅ~む。
早く来るだけで河合さんに微笑まれちゃうなんて……
早出、アリだな。
僕はヨコシマなやつだよ……そう思いながら、陽太が瑠雨図さんの席の方を見てみると、彼女の姿はありませんでした。
結局、その日瑠雨図さんは8時には現れず、
瑠雨図さん「ごめんなさい~!」
とペロッと舌を出して、いつものように9時ぎりぎりにやってきたのでした。
自分との約束か……。
ずんずん先生が言った意味が、陽太はちょっとわかったような気がしたのでした。
今日の処方箋
・時間にルーズな人は、他人の時間なんかどうでもいいと思っている
・時間を守れないのは、守ったところで自分にとって「うれしいこと」がないから
・時間を守れるようになるには、まずは時間を守ることへのメリットを探す必要がある
・時間を守ることの裏にある、自分自身が得られるものは何なのか、を考えることが大切!
いまだ謎の多い外資系企業。三流大卒、埼玉のOLだったずんずんさんが見た、その”実態”とは……?