世界の壁は高くない——海外で成功するための教科書(廣済堂出版)
〈コミュニケーションの壁〉
日本語のあいまいな「イエス」「ノー」がもたらすトラブル
コミュニケーションを円滑なものにするために、あいまいな日本語のリスクについても、知っておきましょう。
特に「イエス」と「ノー」のその中間にある「もち帰って検討します」、さらには実質的な「ノー」の類である「考えます」「考えておきます」「検討します」などの日本ならではの言葉の使い方が、外国人とのコミュニケーションでトラブルを巻き起こしたりすることが多くあります。
日本語でいうところの、「検討します」は典型的な例です。これは日本では事実上、「ノー」や「後回し」を意味していることが少なくありません。しかし、それをそのまま外国人が真に受けると、ほとんどの場合「イエス」に受け取られてしまうことがあります。
日本人は断ったつもりだったが、なぜか先方はそう思っていなかった、つまり、外国人には取引において「イエス」に聞こえていたのだが、本当は「ノー」だったということがあると、「あのときはよいといったじゃないか」とトラブルになったりします。
また、社内のコミュニケーションでも上長に自分のプロジェクトが「認められた」と思っていたのに、後になって「否定されていた」と部下が知ったりもします。
特に欧州では、取引において口約束が法的拘束をもっていることも多く、安易な表現が相手に逆手に取られてしまうのを見てきました。
実際、こんなことがありました。
ある重要案件を中止にするか継続するか、検討していた際に、「どうしましょう、本プロジェクトは中止ですよね?」と外国人の部下が聞いところ、「ああ、中止にすることを検討しよう」と日本人のマネージャーがいいました。それを聞いた部下は、言葉通り六カ月後くらいにはそのプロジェクトがなくなるものだと思っていました。ところが、そのプロジェクトはそのまま三年経っても中止されず、その後さらに三年間、そのままでした。
この場合は、最初から部下に「継続」か「中止」かはっきりいえばよかったのです。
ところが、日本的な感覚で、あいまいに言葉を使ってしまいました。結果としては、やる気のない事業のやり方で発展することなくずるずるしてしまい、混乱をももたらしてしまったのです。
日本的なあいまいな断り方、イエスのようでノー、というのは、海外では通用しないのです。
実際、改めて海外でビジネスをして実感したのが、日本人のコミュニケーションについて、海外の人が困っていた、ということです。
大事なことは、きちんとお互いの意思を確認するということです。イエスなのか、ノーなのか。そして、わからないときには、その都度ちゃんと聞くことが大切です。仕事で関わる人にも、わからないときは、ちゃんと聞いてほしいといっておきます。
相手に聞くことはまったく恥ずかしいことではないですし、あいまいなコミュニケーションのまま進めるほうが、海外では失礼な場合もあります。
それこそ米国人同士の場合は、イエスとノーの断定言葉がどんどん飛び交って、激しい議論になることも少なくありません。まるでケンカをしているかのように、バンバンいいたいことをいい合ったりします。しかし、終わった後はもうさっぱりしていたりするものです。
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