嵐と布袋寅泰が「サムライ」として共に戦った理由
大谷ノブ彦(以下、大谷) 嵐のニューアルバム『Japonism』、めちゃくちゃいいですよね。
柴那典(以下、柴) ほんとそうですね。たぶん今年最も売れたアルバムになると思うんですけれど、内容もほんと素晴らしい。楽曲のクオリティがとても高くて、しかもコンセプトが徹底されてる。
大谷 前の『THE DIGITALIAN』にはあんまり前のめりになれなかったんだけど、「これこれ! 聴きたかった嵐はこれだな」と思ったんですよね。今回のテーマが「原点回帰」と「日本らしさ」ということで、和楽器を使ったりした「和」のテイストがある一枚になっている。
柴 そうなんです。これ、『Japonism』というタイトルの通り、日本らしさというものがコンセプトになっているんですよね。で、今日話したいのは、実は星野源のニューアルバムの『YELLOW DANCER』も日本らしさがテーマになっている。
大谷 それはヤバい!
柴 で、今回は2015年を代表する2枚のアルバムが、実は同じテーマに真逆のやり方で挑んでいるという話をしようと思っていて。
大谷 どういうことですか?
柴 まず嵐の『Japonism』って、単に和風なんじゃなくて「外から見た日本」がコンセプトらしいんですよ。それもメンバー発案で決まったことらしい。
大谷 今回、リード曲の「心の空」を布袋寅泰さんが書き下ろしたじゃないですか。それもすごいですよね。見事なまでに和のテイストになっている。
柴 「心の空」は和太鼓を叩いて「We Are Samurai」って歌う、まさにコテコテの和風な一曲ですからね。そもそも嵐はSMAPと違って大物ミュージシャンを作曲に起用することが少ないのが特徴で。ここ数作は布袋さんが唯一と言っていい。
大谷 布袋さんはBOØWYで今に通じる日本のロックの礎を作ったわけですが、もともと和のセンスを持った人だと思うんですよ。60年代や70年代から、日本のロックの巨大なテーマはいかに海外コンプレックスから解き放たれるかということだったと思うんです。いかに海外のロックを日本の土壌に取り入れるか。はっぴいえんども、キャロルも、そういうことをやってきた。
で、80年代にBOØWYが革命を起こしたのも、やっぱり布袋さんがそういう人だったからなんですよ。
柴 というと?
大谷 布袋さんって、洋楽的なエッセンスや発想を持った人なんですよね。デヴィッド・ボウイが憧れだった。イギリスのパンクやグラム・ロックをどうやったら日本でできるかを考えていた。
でも、彼には一方で歌謡曲のルーツもあった。だからメロディセンスにも非常に大衆性があった。ギタリストでもあるけど、日本人の好きな歌モノのメロディを作る人なんです。
柴 ただ、日本のロックの礎と言っても、はっぴいえんどとBOØWYはかなり違うタイプですよね。一方は東京育ちで、一方は群馬から上京してきた。
大谷 そう。だからBOØWYはキャロルや矢沢永吉の系統なんです。氷室京介さんがまさに不良でヤンキーだった。キャロルに憧れてバンドを始めた。BOØWYって、メロディーの布袋とヤンキーの氷室っていう最強の二人の合体なんです。だから爆発的に売れた。
GLAY のようなロックバンドがあれだけメガヒットするようになったのだってBOØWYが道を作ったからだし、ミスチルとかスピッツもBOØWYに似たコード進行の曲がある。そういう布袋さんが、今、嵐に曲を書いているというのがめちゃくちゃおもしろい。
柴 しかも今の布袋さんがすごいのは、それだけ成功しながら日本に安住しないで海外でまたイチからキャリアを始めていることなんですよね。特にここ最近は、3年前からロンドンに移住して、小さなライブハウスに出演したり地道な活動を積み重ねてきた。
大谷 ソロになってからインストで世界に進出したんですよね。『キル・ビル』の主題歌を書いたり。
柴 そうなんですよ。イギリスのライブハウスでやると、お前の『キル・ビル』のカバーよかったぜ、とか言われたりしながらやってるらしい。