坂井の尽力により、旧営業部員全員の再就職は見事うまくいった。そして、再就職先はなんとあのサムバルンだった。
給料はDNS当時の1.5倍という好条件もつかみとった。
「僕はいまだによくわからないんですよ。なんで、サムバルンはあんな条件を飲んだのかって」
本日3つ目。大好物の唐揚げに手を伸ばしながら草加が言った。
「それは簡単ですよ。給料1.5倍出しても充分リーズナブルだったんです」
「だって、僕らがもしあのままDNSに残って買収されていたら、給料は下がりこそすれ、上がることはなかったわけでしょう……。本当に坂井さんはすごいですよ」
唐揚げで口がいっぱいの草加に代わって村中が言う。
「違います。あなたたちにその価値があったんです。DNSの半導体部門は年間の50億の売上が本来ならあるんですよ。でもサムバルンがDNSを買収して4ヵ月たった時点で、その20%にも到達していませんでした」
そうだったんだ。美沙は坂井の口から放たれた数字に驚きつつも納得がいった。
「だから、あなた方の給与条件を飲ませるのは、そんなに難しくはありませんでしたよ」
「でも、それまで半年間私たちの給料は坂井さんの自腹から出ていたんですよね?」
ずっと沈黙でやり取りを聞いていた三上がはじめて口を開いた。
「まあ、でもそれはすでに回収できていますよ。サムバルンからあなた方の年棒分の40%は手数料としていただいていますから」
「ま、まじっすか……」
4つ目の唐揚げを口に運ぼうと俯いていた草加は思わず顔をあげ口にした。唐揚げが見事に箸からすべり落ちる。
「はい、まじですよ」
「とはいえ、坂井さんはどうして僕たちのことをここまで面倒見てくれたんですか? うまくいったからよかったものの、ひょっとしたら僕らの給料分、大赤字だったかもしれないんでしょう」
今度は上杉が坂井に詰め寄る。
すると坂井は大きく一呼吸し前を見据えた。その様子にただならぬ何かを感じた営業陣の姿勢は言わずもがな正された。視線が一点に集中すると静かに坂井が口を開いた。
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