運動上手は「神経」から?
—— BMIについては川人さんの本をいくつか読んだんですけど、自分の分身を遠い場所に派遣したりするサイバーパンクっぽい未来が書かれていました。アンドロイドの石黒先生は実際にそれをもう実践されているみたいですが。西村さんがそういった方向にいかなかったのは、なにか違和感があったからなんでしょうか?
西村 えーっと、僕もともと算数大っ嫌いで。勉強も大っ嫌いで。僕のバックグラウンドはスポーツなんです。
—— そうなんですか(笑)。ちなみにやっていた種目は?
西村 陸上だったんですけど、途中で全然タイムが伸びなくなった。中学生の時身長180センチで体重が60キロそこそこしかなかったんです。筋肉をつけようと思って筋トレを3年くらいやったんですけど、タイムは落ちていく一方で。それで体育の先生になろうと思って体育大学に行ったんです。そこの神経生理学の授業で、筋肉は実は神経に制御されているということを知ったんです。
—— なるほど。それで神経で制御するという方向に……。
そういえばひとつ面白いことを思い出しました。先日、整体に行ったのですがその整体で最初にやらされるのが、垂直に落ちるものを素早く取る、ということなのです。反応が遅いとキャッチできなくて物が下に落ちてしまうわけです。当然最初は取れない。ところがその整体では、脊椎の間をあけて神経の伝達速度を早くすると早く取れるんです、という話をするのです。ほんとかな? と思っていたのですが、整体を受けたあとにやると確かに取れるのです。この話を西村さんにすると……。
西村 うーん、整体で神経の速度が上がるのかはわからないんですが(笑)、運動の速度と神経は、かなり関係があるのは確かです。僕の場合は、どうやって自分は自分の体を制御してるんだろうっていうのを考えたのが始まりですね。一方で最近面白いなと思っているのが、感覚です。考えなくても運動できることがある。長嶋さんとか、あんまり考えてなさそうですよね。
—— はい(笑)。バッと振って、バコーンと打って、さっと走ればいいみたいな。
西村 一方でイチローとか松井とかは結構いろいろなことを考えながら野球をしているっぽいと。そこの違いはなんなんだろうか、と。ちなみに、僕の場合は途中で変に考え過ぎちゃったんですよね。
—— 走ることをですか?
西村 そうですね。右足を出して左足を出す、というだけのことについて、すごく考えてしまった。
—— それわかります。よく、人間が認知して行動に移すまでに0.5秒位ラグがあるっていうんですけど。野球選手って、相手の投げた球がこっちに来るまでもっと早いわけです。そんなこと考えたら絶対打てないはずなんです。
西村 何も考えてない。
—— そうですよね。
西村 もちろん実際に運動する前のところで意思をうまく利用することもできるんです。例えばグリップをどう握るとか、右手を支えるとか。でも、そこでうまく行けばいくんだけど、失敗する人は失敗しちゃうと。
—— でも運動って、段階があると思うんです。最初に初めての動きをインプットする段階と、自動化されている動きを呼び出すだけの段階。ぼくは昔、ちょっとだけボクシングをやってたんですけど、最初は全部言語化してやってたんです。左、右、左、右、みたいな。でも最終的には自動的にコンビネーションとかが一連の動作として出てくる。
西村 それは小脳の機能なんです。はじめは別々な知識がばーっと並んでいても、それを訓練するにつれて小脳に記憶ができて、あとはそこから引っ張りだせばよくなる。人間身体を制御するのは頭なんです。だから僕は神経を繋ぎなおして、人間の機能、脳の機能をそのまま使うだけという方向です。それに対して、BMIの多くは脳の機能も工学的に作ろうとしているんですね。
—— なるほど……西村さんのアプローチの方向がいろいろ理解できてきました。
西村 それもありますし、そうした研究は、運動をつかさどる脳の部分は決まってる、という発想にもとづいている。すでに脳機能は決まってる、と教科書にはあります。運動に関わる脳の部位は、場所が決まってるとされている。これはもう人も、猿も、ネズミも同じ。ここは自分で動かすところで、ここは感覚入力が入ってきて、自動的に活動する脳領域だ、というふうに言われるわけです。
—— ぼくもそう本で読みました。脳の機能地図みたいなものを見たことがあります。
脳の能力はまだ最大限活用されていない
西村 でもそれは誰が決めてるの? ってことを僕は問題提起したいんです。
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