SMAPが「多様性の時代」を象徴する
大谷ノブ彦(以下、大谷) こないだ久しぶりにこの連載の反響を調べたんですけれど、最近の中ではヒップホップの回のリアクションがおもしろかったですね。
柴那典(以下、柴) 「高田純次、加山雄三……おもしろみしかないヒップホップの鉱脈」の時ですね。どうでした?
大谷 ほとんどそうじゃなかったけど、なかには否定的な人もいて。そういう人のプロフィールを見ると、地方でラップをしてる40代くらいのヤツだったりする。
柴 僕も見ましたよ。「こいつらのしゃべってるのは何もかもムカつく」ってツイッターで書いてる人もいた。
大谷 そういう人たちって、本当に保守的なんだなあって思いますよ。海外の文化を取り入れて、日本的なものに改良していくおもしろさというのもあるのに、もともとあるスタイルをそのまま踏襲することばっかり考えてるというか。すごく村社会っぽいなって思った。
柴 でも、僕の印象では、そういう人は思ってたより全然少なかったです。記事が公開された後、ヒップホップにくわしい友達に「ディスられそうな話題によく突っ込んでいったね」って言われたんですよ。でも、「外のヤツらが勝手なこと言ってんじゃねえ」みたいに怒ってる人はごく少数だった。シーンのムードが変わってきてるんだなって思いました。
大谷 これは音楽だけの話じゃないと思いますよ。だって、今の世の中で一番大事なことって寛容さだと思うから。
柴 この連載でも、多様性と寛容さは一つのテーマですね。ひとりひとりの「心のベストテン」にケチをつけてもしょうがない。
大谷 そう! だから、そういう保守的で怒りっぽい人って、実は世の中でどんどん相手にされなくなってきてるんじゃないかって思うんですよ。
柴 なるほど。世の中のムードが変わってきている。
大谷 そういう人も、実際に会ったらイヤな人じゃないと思うんです。
柴 むしろマジメな人が多い気もします。
大谷 ただ、どうしても文字で書くと攻撃的な言葉になっちゃう。だから言い回しって、すごく大事だと思うんですよ。
柴 同じことを言っていても、言い方によって伝わるものが全然違ったりしますからね。
大谷 世の中が変わってきてるという話で言うと、どんどん社会に多様性が浸透してきていますよね。渋谷区が同性愛者の結婚証明書を出したり。新宿で義手と義足の女の子がやってるバーが話題になったり。
柴 「ブッシュドノエル」というバーですね。「欠損女子」というキーワードでこれを取り上げた記事がかなり反響を集めた。
大谷 これ、すばらしいと思うんですよ。何がいいかって、ちょっと「萌え」を感じるところ。これまでは障害のある人の話題って、どうしても「いい話」とか「泣ける話」になりがちだったんだけれど、普通に「かわいい」とか「かっこいい」という話になっている。
柴 女の子たちも自然なんですよね。義手も義足もメガネと変わらない、って。そう考えると、障害者と健常者というより「義手萌え」「メガネ萌え」みたいな話になってくる。
大谷 そうなんです。なんなら、グッと来るというか、これこんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、抱かれたいな、とすら思う。
柴 あははは、それは怒られそう。でも、そう思うことがいけない、不謹慎だ、というのも裏を返せば彼女たちを差別していることになりますからね。
大谷 いまだに障害者はかわいそうという「いい話」の中で扱わないと怒る人だっていると思うんです。でも、「障害」ではなく「個性」としてとらえれば、背の低い子や舌っ足らずの女の子がかわいい、というのと同じですから。そう欲望されることにも寛容なムードは、次のステージだと思いますよ。
柴 そうかもしれないですね。
大谷 2020年の頃にはパラリンピックもだいぶ変わってくると思うんです。スポーツ用の義足もどんどん進化してる。去年には、ロンドン・パラリンピックの走り幅跳びの金メダリストが、健常者の記録を超えてドイツ選手権で1位になるようなこともあった。
柴 こうなってくると義足なのかサイボーグなのかわからなくなってきますよね。もう「障害者はかわいそう」というだけの話じゃなくなってきている。
大谷 そこで、さすがだなと思うのはSMAPなんですよ。SMAPが2020年のパラリンピックの応援団をやるんです。
柴 こないだニュースになってましたね。「SMAPのPをパラリンピックのPに」って中居さんがコメントしていた。
大谷 SMAPって、やっぱり時代の象徴なんです。90年代にアイドルの常識を変えたのも彼らだったし、その時その時で価値観を変えてきた。
で、今になって、稲垣吾郎さんが「ヒロくん」という50代の男性と半同居している話をテレビでしている。これも多様性を受け入れるという話ですよね。
柴 もはやそれでファンが減るようなグループではないですもんね。
大谷 これから日本の社会は、少しずつ変わっていくと思いますよ。寛容さと多様性が浸透していく。その先陣を切ってるSMAP、さすが国民的アイドルだな!と思いますね。
パンツ一丁の46歳「クリトリック・リス」が泣ける理由
大谷 この流れで僕がオススメしたいのが、まさに世の中の多様性を象徴するようなアーティストなんですけれど。クリトリック・リスという大阪の46歳。
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