新訳 世界恋愛詩集

さよなら、たまねぎ」 ニーチェ

切なく報われぬ恋のいらだちを、哲学の巨人はどのように描いたのでしょうか。誰もがその名を知るニーチェ、実は多くの詩作を残していることをご存知ですか? 彼の残した一篇「山羊飼の歌」が菅原さんの超訳により現代に甦ります。
東京ミッドタウンの読書イベント「夜の読書館」の館長としても話題を集める詩人・菅原敏さんが、古今東西の恋愛詩に新訳という名のオマージュを捧げる本連載。気鋭の現代美術家・久保田沙耶さんのアートワークとともにお楽しみください。


わらのベッドに横になり
寝返りうって 気分は最悪
腹も痛いし 虫にもさされ
だけど向こうじゃ
ほのかな灯りと 笑い声
ああ 聴こえるよ ばかやろう
みんな楽しく踊ってるんだ


この時間に彼女は来るといったのに
そんな気配はまったくなくて
俺はただ 犬みたいに待っている
彼女が来るのを 待っている


十字を切って約束したのに
やっぱりあいつは嘘つきで
俺の飼ってる牝ヤギみたいに
だれかれ構わず ついていくのか?


あいつが着てた新品の服
いったい誰から貰ったんだ?
やっぱりあいつは ずるい女で
この森には 牡ヤギたちが
わんさかわんさか いるらしい


とまあ、こんな具合に待ちぼうけ
報われぬ恋をしていると
分かるだろう?
切なくも 腹立たしさと いらだちで
ひねくれた 卑屈な気持ちになっちまう
雨の夜 にょきにょき生える 毒キノコ


こころもからだも すり減って
食欲なんて ありゃしない
さよなら たまねぎ 心臓ぺりり


月も海で溺れてる
中古の星は くたびれて
うっすら夜も あけてきた


まったく死にたい気分だぜ



「さよなら、たまねぎ」


フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(1844〜1900)

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
新訳 世界恋愛詩集

菅原敏 /久保田沙耶

あまたの恋を書き残してきた、かつての詩人たちに、新訳という名のオマージュを。『新訳 世界恋愛詩集』は気鋭の詩人、菅原敏による新連載。いにしえの恋愛詩の輪郭を、菅原敏のいまの言葉でなぞっていきます。古い詩集に絵の具を落とし、新たな色で輪...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

orkaar2 @w06220212k あった……😱😱😱 まさかのニーチェの恋愛詩✨💕 https://t.co/MO3Ygq5eMm 約2年前 replyretweetfavorite

son59h 恋する男の心情がこうであれば… https://t.co/jW6HdkihPg 3年以上前 replyretweetfavorite

sayakubota 【更新しました】 https://t.co/p0E8atGyPV | 3年以上前 replyretweetfavorite

sugawara_bin 『さよなら、たまねぎ』 ニーチェ https://t.co/Ov7X9JzVNO 新訳世界恋愛詩集|cakes(ケイクス) https://t.co/Iid5bM9hAb 3年以上前 replyretweetfavorite