『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(’98)、『シャーロック・ホームズ』(’08)などで知られるイギリス人監督ガイ・リッチー。彼の新作は、テレビシリーズ『0011ナポレオンソロ』(’64 - ’68)の映画化である。2015年は、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』『キングスマン』『007 スペクター』など、話題のスパイ映画が連続した年だが、『コードネーム U.N.C.L.E.』もまた独自のテイストを持っている。
作品の舞台は1960年代の冷戦構造下。ナチス残党とつながる国際犯罪組織に対抗するため、アメリカとソ連のスパイがやむなく手を結び、共同で問題の解決にあたるというあらすじだ。おたがい一流の腕前だが、相性は最悪という米ソのスパイがコンビを組み、いかに協力しつつ危機を脱していくかが見どころ。アメリカのスパイに、『マン・オブ・スティール』(’13)でスーパーマンを演じたヘンリー・カヴィル、ソ連のスパイには『ローン・レンジャー』(’13)『ソーシャル・ネットワーク』(’10)などに出演したアーミー・ハマーがキャスティングされている。
軽薄な映画である。116分の上映時間を通して、そのスタイルは途切れることがない。60年代の雰囲気を贅沢に再現した、登場人物たちの粋なファッション。どのような場面でも決して深刻にならず、ユーモラスにさらりと先へと進んでいくテンポのいい構成。フルートやハープシコードを多用した流麗な音楽を、映像と絶妙にシンクロさせたリズム感のよさ。それらすべてが「軽薄」のひとことに尽きるのだが、われわれ観客は、気がつけば監督の繰りだす手練手管にすっかり乗せられてしまい、結果的に作品を大いにたのしむこととなる。
監督が執拗にこだわる軽さこそが、『コードネーム U.N.C.L.E.』最大の魅力である。ここまで飄々とした態度を貫くガイ・リッチーという男に尊敬の念すら湧いてくるのだ。作品の重厚さ、メッセージ性などどこ吹く風といった風情で、カーチェイスでは2台の車が息の合ったアイススケートのペアのようにカーブを曲がり、銃撃戦では拍子抜けするほど軽快な音楽が鳴り響き、主人公たちはどのようなピンチに遭遇しても、平然と軽口を叩きながら次々と切り抜けていく。あらゆるシーンが徹底して軽く、軽妙でファッショナブルな映像という美意識に貫かれているのだ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。