日経電子版 渡辺洋之「月4200円課金するには、紙以上の価値がなければならない」

日本経済新聞のデジタル版として2010年にスタート、月額4200円というけっして安くはない購読料ながら40万人以上の有料会員数を誇る「日経電子版」。この巨大な有料メディアをつくり上げた立役者が日本経済新聞社執行役員、渡辺洋之さんです。『日経パソコン』編集長を務めたこともあり、IT業界にも明るい渡辺さんに「日経電子版」がなぜ成功したのか、その理由をじっくりと語っていただきました。

他メディアと最大の差別化は「記事の数」

加藤貞顕(以下、加藤) 2010年に「日経電子版」がオープンして、約5年が経ちました。その電子版を設立からまとめあげてきた、渡辺さんに「メディアビジネスの未来」について、いろいろとお話を伺えればと思います。

渡辺洋之(以下、渡辺) ありがとうございます。お役に立てればいいのですが(笑)。

加藤 まずは数字を確認させてください。現在の、紙版の日経新聞の部数と、電子版の購読者数はそれぞれどれぐらいでしょう?

渡辺 紙の新聞の部数は280万部弱です。「日経電子版」の有料会員数は4月の時点で43万人、無料の会員が243万人なので、「日経電子版」全体で280万人ぐらいです。有料と無料併せると、紙の新聞と同じくらいの数になりました。

加藤 少し聞きにくい質問なのですが、一般的に、ネットが登場して以降、紙の新聞の部数は、減少する傾向がありますよね。日経新聞はどうでしょうか。

渡辺 そうですね。業界全体では日本全国で5000万部ぐらいあって、それが今、年間で100万部ぐらいずつ減っています。だいたい北海道新聞1社分の読者が1年で減っているという状況です。
 日経新聞もピークは300万部を超えていました。ただ、電子版の有料会員数が補っています。

加藤 なるほど。電子版の有料会員が43万人ですものね。足すと300万を軽く越えますね。それにしても、43万人という数字もすごいのですが、登録会員の中で有料会員の比率がすごく高くないですか?

渡辺 15~16%くらいですね。こういうものは普通、3%から5%くらいと言われていますので、ちょっと珍しいぐらい高いと思います。

加藤 始めて5年で43万人というのは、それにしてもすごいです。電子版は印刷の必要がないわけですから、利益でみると紙の新聞を超える日も近いのではないでしょうか?

渡辺 いやいや、紙は280万部ですからね。利益額で紙を超えるのはたいへんですよ。利益「率」はもちろん上回っていますが。

加藤 日経新聞の紙版の購読料は4509円。それに対して「日経電子版」の購読料は4200円と、かなり近い値段設定なんですよね。

渡辺 そうですね。日経の電子版は、ざっくり言うと月40ドルなんです。オープン前、世界中のいろいろな人に聞きましたけど、「アダルトサイト以外で40ドルはない」「日経はアダルトサイトを作るつもりなんですか?」と揶揄されたりもしました(笑)。

加藤 ニューヨークタイムズとか、海外の新聞のサイトはもっと安いですよね

※ NewYorkTimesオンラインはプランによって約920円~2150円(4週間)

渡辺 はい。数ドルから20ドルくらいですよね。そういうものと比べると、「日経電子版」は高いです。ただ、日本経済新聞の紙の新聞を読んでいる方は1000円を加えると紙と電子版の両方を購読できます。日本経済新聞はデジタル専業の会社ではないので、紙も大事にしたい。だからこの「Wプラン」が重要なんです。

加藤 他の新聞社はなかなかこれほど思い切った電子版にしていないのは、なぜでしょう?

渡辺 どうなんですかね。システムも用意する必要がありますし、あとは他と差別化するコンテンツも必要ですよね。Yahoo!ニュースなどで多くの新聞記事が無料で読める中、課金に足るオリジナルのコンテンツを用意するのはなかなか難しいものがあります。

加藤 でも「日経電子版」は43万人の購読者が求めるようなものができているわけですよね。どのような差別化を行っているのですか?

渡辺 まずは単純なんですが、記事の数です。朝刊と夕刊を合わせると、紙の日経新聞では1日300本の記事があります。それに対して、電子版では1日900本の記事があります。電子版のほうが圧倒的に記事の数が多いんです。

加藤 おお。そんなに違うんですか!

渡辺 はい。なにしろ紙とだいたい同じ値段ですから。「デジタルは紙代も印刷代も輸送代もかからないのに、なぜ高いんだ」という議論には与しないということをスタート前に何度も社内で説明しました。

加藤 ええ。

渡辺 紙と同じ値段でデジタルで課金してもらうには、紙と同等ではダメだと我々は考えています。「紙≧電子版」の不等号の向きを逆にしないければならない。
 つまり、電子に4000円を出してもらうためには、紙と同等ではなく、デジタル独自の圧倒的な価値を持っていないといけません。

加藤 なるほど。

渡辺 広げて俯瞰できる一覧性という意味ではデジタルの方が圧倒的に不利ですが、情報の収集形態、便利さということを考えると、電子版でも悪くないというくらいの価値にしているつもりではあります。
 1日900本の記事があって、キーワード登録しておけば自動的に記事が集まるレコメンド機能もある。シングルプライスでマルチプラットフォームも保証しています。

加藤 紙だけで記事を300本も作っているのに、プラスで600本を作るというのは、現場がすごく大変そうです。

渡辺 電子版独自の記事もつくりますが、あとは日経グループの力をうまく使っています。日経グループのウェブメディアの記事や、「QUICK」という我々がもともとやっている投資情報サービスの記事や、私の古巣の日経BPの雑誌の記事などを掲載しています

加藤 なるほど。「日経電子版」は日経グループ全体の情報プラットフォームになっているんですね。

渡辺 結果としてそういうことになりましたね。

Yahoo!ニュースと逆張りをして、広告単価を何倍にも引き上げた
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コメント

motoji_etoile なるほど。紙は280万部で、電子版の有料会員は43万人、無料会員は243万人、したがって、紙とデジタルはほぼ同数か。 > 約2年前 replyretweetfavorite

ushisantoasobu エンジニア界隈でのブランディングもまあまあ成功してた気がする 約2年前 replyretweetfavorite

koootan なるほど→ 約2年前 replyretweetfavorite

TwinTKchan 広告単価の話。専門性が高く、読者が明確なメディアは1PVが何百円に。逆のは20銭。イベントや人材紹介など、BtoBビジネスにつなげれば、1万円になる。 約2年前 replyretweetfavorite