SFおたく道—水玉螢之丞を語る③「最近おもしろいのある?」は恥

2015年8月11日(火)、水玉螢之丞『SFまで10000光年』刊行記念対談として、ジュンク堂書店池袋本店にておこなわれた大森望×岡部いさくの対談を掲載します。いさましいちびのイラストレーター・水玉螢之丞はどのようにして生まれ育ったのか? 実のお兄様である岡部いさく氏に、大森望氏がせまります。(全3回/構成・さいとうよしこ)

■おたくの資格

岡部 妹は、赤塚不二夫の「おそ松くん」(〈週刊少年サンデー〉小学館 1962~1969年)とか『まかせて長太』(〈少年〉光文社 1963~1965年)とか『メチャクチャNO.1』(〈冒険王〉(秋田書店 1964~1965年)とかリアルタイムで読んでいたと思います。それで、しばしば赤塚不二夫絵で描けちゃうという。

大森 リアルタイムで、ってところがポイントですね。赤塚不二夫にしても、そうやってハマると、ずっと新作を読みつづけていた。水玉さんは、作家でもジャンルでも、つねに最新のものをフォローしてないといけない、みたいな信念があって。ノスタルジーだけで語らない。『10000光年』をノスタルジーものとして読む人もいるかもしれないけれど、全然そうじゃなくて、アニメを見るとなったら今いちばん何がおもしろいかをちゃんと自分の目でチェックしてないといけないし、SFも、誰にも言わずに、つまらないSFもずっとちゃんと読んでいる(笑)、そういうところがありますよね。昔読んだ記憶で、昔のものについて語るんじゃなくて、その後もずっとフォローしてる。そこがやっぱりすごいな、と。
 水玉さんがよく言ってたのが、「最近おもしろいのある?」と言うようになったならおしまいだ、と。ぼくはTVアニメ全然フォローしてないんで、「今期は何がおもしろいんですか?」とか平気で訊いてたんだけど、考えてみたら、たしかにSFについては、「最近おもしろいのある?」と人に訊いたりはしない。水玉さんの場合には、SFにしろアニメにしろゲームにしろ、そんなことを他人に訊くのは恥だ!と(笑)。その分野について、自分が一番詳しくないといけない。「最近おもしろい××ある?」と他人に訊けないことが、××に対する愛情の物差しだって言われて「そうか、厳しい世界なんだ」と(笑)。まあ、全ジャンルに詳しいとか無理なんですけど。

岡部 いやあ、それは虫の居所が悪かったのかもしれませんね(笑)。

大森 筋は通ってる(笑)。気軽にそう訊くけど、気軽にそう訊くってことは、あなたはそのジャンルは引退したってことですね、という。その表明なんだと理解しろ、ってことだと思うんですよね。岡部さんも、他人に「最近の戦車でおもしろいのある?」とか訊かないわけですよね。

岡部 訊きませんね。「最近、アメリカ海軍ってどうよ?」とか、訊かないですね(笑)。

大森 SFは? 「最近、おもしろいSFある?」とは—。

岡部 や、訊かないですね(笑)。

大森 家風!

岡部 かもしれないですね。「アレっておもしろいの?」とか、おたがい訊いたことなかったですね。

大森 軍事情勢なども……。

岡部 軍事情勢について妹に訊くことはないですけどね(笑)。訊かれることもなかったですね。

大森 岡部家にはそういう鉄の掟が(笑)。

岡部 岡部家かどうかはわかりませんね。父は酔っ払うとよく、「最近どう?」って訊いてきましたから(笑)。そうすると、子どもたちの間では部屋の温度が2、3度下がる(笑)。妹は、「さあ、どうなのかしら」みたいに答えてましたね。それぐらいのむごい返しは平気でありました(笑)。

大森 手軽に情報を得ようとする人に冷たいという。自分がハマってもいないものに対して、努力もせずに上澄みだけの情報を手軽に得ようとする人には厳しい。たとえ父親でも。

岡部 知りたかったら自分で知れ、みたいな。

大森 自分で潜れるところまで潜って、話はそこからだ! そこまで行ったら話を聞いてやろう、という。……たいへんですね。

岡部 そうですね(笑)。「こないだ、『宇宙の傭兵たち』のシリーズ(ジェリー・パーネル)読んだんだけどさ」「ふーん、『リングワールド』(ラリイ・ニーヴン)のほうは読んでないの?」そういう返しが来ないとダメなんですよ。……けっこう、疲れるきょうだいで(笑)。

大森 ぬるい会話ができない(笑)。

岡部 妹もぼくも熱心にSFを読んでたころは、ちょっと変な言い方ですが、切磋琢磨というか、そういう雰囲気はありましたよね。「妹はああいうものを読んでるだろうから、こっちもこれくらいのものを読まなきゃな」みたいな。

大森 逆に「さすがに、これはあっちは読んでないだろう」とか。

岡部 そうそう。ただ、おたがい興味の方向が違うので、「おまえ、『竜の卵』読んだ?」みたいなことは言えませんよね。たぶん読まないだろうし。

大森 ハードSF方面が兄の担当だったんですか?

岡部 そうですね。昔のクラーク少年からすれば。

大森 フォワードくらいは押さえてないと。

岡部 でも、バリントン・J・ベイリーなんかは妹が教えてくれたんですよね。「兄ちゃん兄ちゃん、この『禅〈ゼン・ガン〉銃』っておもしろいよ」って。

大森 いつくらいまで?

岡部 僕が就職して家を離れたころまで、ですかね。それまではほんとに家の中で、読んでる本を報告しあうことはないけれど、相手がそれぞれ読んでる本があって、ちらっと見ると『カエアンの聖衣』とか書いてある(笑)。そういう雰囲気で。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

SFマガジン

この連載について

初回を読む
岡部いさく×大森望「SFおたく道」

岡部いさく /大森望

2015年8月11日(火)、水玉螢之丞『SFまで10000光年』刊行記念対談として、ジュンク堂書店池袋本店にておこなわれた大森望×岡部いさくの対談を掲載します。いさましいちびのイラストレーター・水玉螢之丞はどのようにして生まれ育ったの...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

kamanobe 水玉さんのオタク英才教育環境。面白すぎる。< 4年弱前 replyretweetfavorite

nobyta_ 何かにつけ「アレっておもしろいの?」というウチの父…色々と思うところはあるが、まぁ仕方ない (たぶん14日頃まで無料) 4年弱前 replyretweetfavorite

hilbert_d 【はてブ新着ゲーム・アニメ】 約4年前 replyretweetfavorite