レモンサワーからビールに移行したEXILE
メンバー同士で飲みまくり、お店じゅうのレモンサワーを飲み干すこともしばしば、とのエピソードをあちこちで披露し、部族結束の証にレモンサワーの存在を使ってきたはずのEXILEが、「ザ・モルツ」の広告に出始めた。彼らがレモンサワーからビールに移行したことを機にレモンサワーを解禁したのは私だけではないはずだが、メンバー同士で戯れ合う広告のキャッチコピーが「楽しくって、悪かったな。」であることに、改めて彼らの強度を感じた。このキャッチコピーを駅構内で見かけ、条件反射的に「別に何も言ってませんけど」と返したわけだが、遠目から広告を見かけた瞬間には「ったく、相変わらずだなぁ」と悪態をつきそうになっていたことを認めねばならず、となると、このキャッチコピーを挟んだ前後の反応を、両方とも予測されていたようなのである。
思っていることを素直に口にする正しさが、一点の曇りもなくポジティブに機能している空間に身体をあずけると、息をするのが苦しくなる。今日は朝からAAAのベストアルバムを3回ループしながら、過去のインタビュー記事等を乱読していたのだが、「みんなの想い、Loveを繋げて、いろんな夢や目標を叶えていけたらと思います」(AAA『メンバー同士の“絆”と“Love”を語る!』/ORICON STYLE)と答える彼らに対して細かな疑問を呈したところで、こちらの心の汚れだけが際立つことになる。音楽ジャーナリズムを担う皆さんは、この構造に早々に気付いているからこそ、AAAというグループ名に込められたAttack All Around(すべてのことに挑戦する)の姿勢を、立ち止まって考えることなく、そのまま放牧しているのだろう。
AAAを聴きながら丸谷才一を読む
「すべてのことに挑戦する」ならば、こちらの屁理屈にも付き合ってくださるはずなので、やや難題を提起すると、素直な言葉や気持ちをそのまま伝えるという行為は、本当に素直なことなのだろうか。AAAを聴きながら丸谷才一『文章読本』(中公文庫)を開くと、丸谷は「思ったとほりに書け」という文章訓に対して首をかしげ、「頭に浮んだことをそのまますらすら写せばそれで読むに堪へる文章が出来あがるなんて、そんなうまい話があるものかといふことである。すくなくともわたしにはさういふ幸福な体験は一ぺんもなかつた」と書いている。歌詞にしてもインタビューにしてもキャッチコピーにしても素直であればあるほど煌めきを増していく昨今であるが、思ったことをそのまま伝えるとは、本当に素直なのだろうか。
引き続きベスト盤を聴きながら丸谷の『文章読本』から拾うと、「普通われわれは、ある程度以上こみいつたこと、極端に貧弱ではない内容、かなり厄介な事柄を文章に仕立てなければならないから、あれやこれや苦心する」のであり、「判かりきつた話」など「何も改めて文章にする必要がない」とする。今、人様に提示されるテキストはジャンルを問わず押し並べて「判る」ことを重視する。AAAは、純度100%で思った通りのことだけを投じてくる。「こみいつたこと」「厄介な事柄」は、はなから皆無だ。
「男男女男女男男」「男男男男男女女」「女男男男男女男」
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