リョウとアヤ 前編—会えなかったママとの交換日記。

子供たちは、親の離婚をどうとらえているのか――。自身も離婚を経て、2人の子供たちを育てているエッセイストの紫原(家入)明子さんが、さまざまな子供たちへのインタビューをもとに、現代の家族のストーリーを紡ぎます(連載のくわしい成り立ちは序章をお読みください)。
第1回は、幼い頃に両親が離婚し、今は新しいお父さんと暮らしているという中学生の兄妹リョウとアヤの話です。

「リョウまだすねてるの?」
「別にすねてないし」
アヤのまっすぐな視線から逃れるように、リョウは顔を反対側に向けて、そっけなく答える。
「やっぱすねてる」
おかしそうに言うアヤにリョウは余計に渋い顔をして、うるさい、と少し声を荒げた。
「ちょっと、何?」
ママが台所から声をかけると、別に、と言いかけたリョウをアヤが遮る。
「リョウね、さっき寄ったコンビニのおばさんに、また『弟さん?』って言われたの。それでね、ずっとすねてるの」
ママは、なるほどね、と2、3度軽く頷くとちょっと笑って、すぐに口をつぐむ。我関せずということらしい。
「だから別にすねてないって。アヤもママも、ニヤニヤしないでよ」
そんな2人の態度に、リョウは余計にムキになる。

リョウとアヤは1歳違いの兄妹だ。
兄のリョウは14歳で、妹のアヤは13歳。といっても2人の誕生日は11ヶ月しか違わないので、1年のうち1ヶ月間、2人は同い年になる。物心ついた時からリョウのそばにはアヤが、アヤのそばにはリョウがいた。周りからもよく、双子みたいな兄妹だと言われてきた。
だが、しかし。リョウには兄としての大きなプライドがある。アヤに比べれば、自分の方が精神的に大人だという自負もある。何しろアヤは根っから甘えたがりで、1人で寝れるようになったのだってつい最近のことだ。身長だって、リョウの方が4センチも高い。……なのに、なぜかいつも決まって、アヤの方が年上に見られるのだ。リョウにはそれが内心、大いに不服だ。一度だって口には出していないのに、当然のようにアヤがそれを見透かしているのもまた気に入らない。

「アヤ、今日の練習、途中サボってただろ」
兄としてやられてばかりはいられない。今度はリョウが反撃に出る。
「いつのこと?アヤは全然サボってないし」
アヤはリョウの方に身を乗り出してむっとした顔で答える。……そう。アヤはサボってない。どうせ言いがかりだ。それをこんな風に真に受けて、すぐに膨れるところなんか、やっぱりまだまだ子供だな、とリョウは思う。

2人は、同じ中学のバレーボール部に所属している。地区大会を例年勝ち抜いている強豪校で、チームメイトの多くが、小学校の頃からずっとバレーボールを続けてきた強者達だ。バレーボールのために、学区域を越境して入学してくる生徒も少なくない。おかげで、中学入学後からバレーボールを始めたようなリョウとアヤには、全くもって試合に出る機会が巡ってこない。試合となればもっぱらベンチで、応援に声を枯らす係だが、それでも部活は楽しい。

そういえば……とリョウはふと今日、友人から聞いた話を思い出す。目鼻立ちがはっきりとしていて美形のアヤは、他校の生徒から「可愛い子がいる」とよく噂されているという。前に、クラスの男子から告白されたって話も聞いた。……アヤはどうやらモテるらしい。リョウは、リビングのサイドボードの上に置かれた鏡に複雑な思いで視線を向ける。映り込むのは、罰ゲームみたいな坊主頭の自分。せめて髪型さえ違っていれば僕だってモテる……かどうかはさておき、少なくともいい奴そうには見えるはずだ。部の決まりが憎い。

そこへ突然、ぎゃあっと、ママがキッチンで大きな悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
駆け寄るアヤに、ママが情けない声を出して言う。
「あ~、爆発しちゃった」
「爆発?」
「晩御飯のコロッケ、チンしてたら爆発しちゃったのよ」
レンジの前で肩を落とすママをぼんやり眺めていたリョウだったが、突如、あはは、と大声で笑い出した。
「……ママ、おばあちゃんみたい!」
「へえ?」
リョウは、覚えてないの?と呆れたような顔を向ける。

ママのお母さん、つまり2人のおばあちゃんも、リョウとアヤが小さい頃一度、電子レンジの中で大爆発を起こしたことがあったのだ。そのときレンジの中に入っていたものは、コロッケでなく、冷凍のライスバーガーだった。スイッチを入れる前に、袋を少し破っておかなきゃいけなかったのに、おばあちゃんは何も知らずに、そのまま加熱してしまった。そのせいで、加熱開始から数十秒後、ボンっという大きな音とともに袋が破裂。なぜかレンジの中いっぱいにライスバーガーが飛び散ってしまうという爆発事件が起きたのだ。突然の大きな音と、おばあちゃんのびっくりした顔がやけにおかしくて、アヤと2人で大笑いしたものだった。

リョウとアヤがまだ幼かった頃、食事やお風呂、2人の毎日の世話をしてくれていたのは、ママではなくておばあちゃんだった。当時ママは、建設会社の事務や幼稚園の手伝い、レンタルビデオ屋店のカウンターと、1日にいくつもの仕事を掛け持ちして働いていた。毎日、2人が起きるよりも早く仕事に行き、2人がすっかり眠ってしまった夜遅くに、家に帰ってくる。そんなわけだから、ひとつ屋根の下に暮らしていながら、ママとちゃんと顔を合わせられるのはほとんど週末だけ。当時一緒に住んでいたおばあちゃんが、リョウとアヤのママ代わりだったのだ。

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りこんのこども

紫原明子

いまや「よくある話」になっている離婚問題。大人の事情で語られることは多いけれど、親の離婚を体験した子供たちは、何を考えているのでしょうか。自身も離婚を経て二人の子供を育てているエッセイストの紫原(家入)明子さんが、子供たちの思いや現代...もっと読む

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コメント

YukariWatanabe この連載、いつもすごく楽しみにしています。 約4年前 replyretweetfavorite

mahiron 内容と全く関係ないんだけど、兄妹・姉弟でリョウ(タ)とアヤっていう組み合わせを3組ほど知っている。何か由来があるのかな。 約4年前 replyretweetfavorite

Mika67990874 紫原さん、相変わらず最高だなー。後半も楽しみ。 約4年前 replyretweetfavorite

takako_kawasaki この連載を楽しみに待っていました。 「 約4年前 replyretweetfavorite