お金のことしか言わないし、内容にはまったく興味がない
—— この『さようなら』という映画では、「独立映画鍋」のクラウドファンディングを使い、97万円を調達したそうですが。
深田晃司(以下、深田) そうですね。アメリカの「Indiegogo」というクラウドファンディングシステムも使ったので、総額では140万円ほどです。当然、映画はもうちょっとお金のかかる表現で、『さようなら』の規模でも1日で300万円出ていくので、製作費のごく一部をクラウドファンディングでまかなった、という程度ですが。
平田オリザ(以下、平田) まあ、演劇と比べるとかかるお金がひとけた、ふたけた違うよね。
深田 その高額の製作費をまかなうために、助成金や寄付のシステムをパッチワークして、作品性に応じてお金を集めようという映画作家の互助会が、独立映画鍋なんです。
—— 平田さんは、さまざまな著作で演劇の経済性や、そのための法の整備について語りながら、ご自身で30年以上も劇団を運営してきました。もっとも“お金”のことに意識的な作家であるという印象です。
平田 まあ、僕は青年団の演出部の人間にも、お金のことしか言わないですから。作るものの内容なんて、まったく興味がない(笑)。
深田 そうですよね(笑)。青年団の場合は情報の共有も徹底していて、メーリングリストでいつもお金の話が飛び交ってるんです。「こんな大変なんだなぁ」ということは、入ってから初めて知ったことなんですけど。
青年団に限らず、演劇人の意識の高さには驚きました。僕から見ると、ひとりひとりが中小企業の社長みたいに見えるというか。ちゃんとお客さんを集めて、次につなげていくということをみんな考えてるんですね。自主映画の人間にはまったくその意識がないですから。
—— そもそも、小屋をおさえて、定期的に作品を作っていくということ自体が、すごいことですよね。
深田 そうそう。自主映画の場合は、「脚本がうまくできなかったからやめちゃおう」みたいな感じで撮影が止まっちゃう世界なので(笑)。しかも、スタッフとして呼ばれて行ったのに、作品が完成したあとにノーギャラだって知ることもザラだし。なんか、「ドメスティックに貧乏しながら作るのが自主映画だ」ってみんな思ってるところがあるんですよね。
—— それでは作品を作り続けられませんよね。平田さんの場合は、演劇を続けるためのサスティナビリティ(持続性)を重視するがゆえに、劇団運営に非常な労力を割かれているわけですが。
平田 そうですね。演劇というものは、作り続けなければ“死ぬ”んです。しかも、集団で作り続けないと、新しいものは作れない。だから、サスティナビリティを保つためのお金の話は、非常に重要ですね。
—— 先ほども、演出部の人間には「お金のことしか言わない」「内容なんてまったく興味がない」とおっしゃっていました。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。