傷ついた男は〝男の娘〟に癒される 劉邦にひざ枕していた謎の美少年【後編】

秦を倒し、項羽を討った、英雄劉邦は、晩年ひきこもりになっていた!?孤独な皇帝をひざ枕していた美少年とは?
劉邦の宦官』や『九度山秘録』で話題の、新進気鋭の歴史小説家・黒澤はゆまが、歴史のなかの美少年を追って世界中を飛び回る人気コラム!

もともと宦官は神へ捧げられるものだった!?

そもそも宦官とは何かというと、男性にして去勢、性器を切除された人のことを指します。言葉のもともとの意味は「神の奴隷」です。

日本にはなじみが薄く、世界史の授業で聞いてゲッとなった人も多いかと思いますが、実はユーラシア大陸に広くあった習慣で、存在しない日本の方がレアケースだったりします。

なぜ、性器を切除するのかというと、ひとつは男子禁制の後宮に、不貞の恐れのない男手を提供する必要があったという即物的な理由があります。実際に、時代も下って清王朝になると、宦官は料理や裁縫、はては演芸まで、目的ごとに組織化され、後宮の女官や皇帝に対し、さまざまなサービスを提供しました。

しかし、そうした実用的な側面の他に、宦官のそもそもの起こりを、古代までさかのぼれば、まずは異種族を徹底的に根絶するためのものでした。旧約聖書に言う「嫉妬深き神」を抱いた同士の、古代の民族間紛争はブレーキというものがなく、勝った側は負けた方の女はすべてかどわかし、男は皆殺しにしてしまいます。マッドマックスを二乗したような世界ですね。

しかし、時に奴隷として男手も欲しくなる。大事な儀式の生贄のために、とりあえず捕虜をストックしておきたい場合もあります。だが、敵対部族の血筋など、一滴たりとも残したくない。では、どうするか?

ここで、家畜と同じく去勢という手段が、人にも用いられることになります。男のシンボルを切除すると、昨日までの勇敢な戦士が、乳を搾られるのを待つ牛のように従順になるという効果も得られました。

中国史にはじめてあらわれる去勢の記録は紀元前1300~1400年頃の殷の甲骨文のもので、そこでは、チベット系の民族、羌(きょう)族の捕虜を吉日に去勢するが死なないか、神意をうかがっています。

当時、去勢の技術は未熟かつ原始的だったので、よく失敗したのですね。それで殷王は手術中に捕虜が死なないか心配しているのです。ただ、手術に成功して無事宦官になっても、過酷な使役と、最後は神に生贄としてささげられる運命が待っていました。宦官の語源が「神に仕える奴隷」であることの理由はここにあります。

猛将・劉邦のお気に入り、苗字のない異民族の美少年

時代が下ると、去勢は刑罰となり、また、皇帝の近くで働けるため、見返りを期待して自分で希望して宦官になるものまで出てきました。必ずしも異民族に課されるものではなくなるのですが、時折、先祖帰りしたような事例があらわれます。

紀元前109年、前漢、武帝の時代、西域の楼蘭(ろうらん)国が人質として王子を漢に送ってきました。当時、匈奴と激しく争っていた漢にとって、楼蘭は重要なシルクロードの要衝。人質とはいえ、外交上のVIPなはずなのですが、王子が自分たちとは全く違う系統の容姿をしていたためでしょうか、武帝は、無理無体に去勢してしまいます。

この話から、武帝の支配者としての、苛烈極まりないキャラクターを見るとともに、彼とそれ以後の累代の皇帝たちの背に、部族のトーテムをたてまつり、呪いの言葉をはきつつ、異族の男は殺し尽くし、女は犯し、子供はかたっぱしから去勢した、祭祀王である殷王のデーモニッシュを負っていることに気付かされます。

さて、ここで、劉邦に膝枕していたと思われる宦官、籍孺(せきじゅ)の話に戻ると、実は「孺」という文字は名前ではありません。これは小僧とか子供とかいう意味で一般名詞です。『三国志』を読むと、腐れ孺子という罵言が、アメリカ映画のファック並の頻度で出てきますが、年少の子供をちょっと馬鹿にして呼ぶときに使われる言葉ですね。

だから、「籍孺」というのは、籍少年の意味で、彼の姓は実は分かっていないのです。この事情は、「閎孺」も同じです。君主と共に起居し、大臣も気を使ったほどの人物の姓があれば記録されなかったはずはないので、これは、2人とも姓のない異族の出だったからでしょう。

実際、漢王朝はその軍団のなかに、匈奴、鮮卑、烏桓、羌などの異民族を取り込んでいて、現在のウィグル自治区、イリ地区からは、大きな目に、高い鼻という、明らかにコーカソイドの形質をもった兵士の青銅像が出土しています。

匈奴との戦いに巻き込まれてさらわれたのか、あるいは夷族兵の子弟だったのか。籍儒は、その目に、中国とは違う景色を宿した異民族の少年だったのです。

幼いときに去勢して〝生涯純潔〟の「通貞」の実態とは?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載が本になります!英雄と美少年の物語をこちらからどうぞ

なぜ闘う男は少年が好きなのか

黒澤 はゆま
ベストセラーズ
2017-03-18

この連載について

初回を読む
なぜ闘う男は少年が好きなのか?

黒澤はゆま

洋の東西を問わず、戦乱の時代に決まって栄えた<少年愛>。死を賭して戦う英雄の側近くに控える、あるいは金髪の、あるいはブラウンの、あるいは黒髪の少年たち――。戦士は少年に何を求め、少年は戦士に何を答えたのか。時に英雄を生むこともあった、...もっと読む

この連載の人気記事

関連キーワード

コメント

y_koto コラム面白かった〜 約4年前 replyretweetfavorite

otankousagi 美少女のように着飾って振舞う・・・結局美しいものはより女性に近いという事か? 約4年前 replyretweetfavorite

kuro_mk39 こちらになります〜 約4年前 replyretweetfavorite

kissa1510041 よくリヴァイ×エレンでこんな感じの見る 約4年前 replyretweetfavorite