第137回 式の形・グラフの形(前編)

「ああ、だから名前が付いているんですね!」とテトラちゃんが声を上げる。「積分を見つめて」第4章前編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} % HIRAGANA LETTER NO (U+306E) $

図書室にて

ある日の放課後。
が図書室に入ると、席に座ったテトラちゃんがぼんやりと窓の外を見ていた。

「どうしたの、テトラちゃん」

テトラ「あ、先輩! いえ、特に何でもありません。先日教えていただいた積分のお話を何となく思い出していただけです」

「ミルカさんが教えてくれたディリクレの関数、おもしろかったね(第136回参照)」

テトラ「そうですねえ……あたしはまだよくわかっていないのですけど」

「そうだ、このカード。村木先生からもらってきたよ」

テトラ「え、あたしに、ですか?」

「うん、そうだよ。積分の問題」

村木先生のカード
$$ \int (x + x + x) \,dx $$

テトラ「これは……積分の問題ですね」

「そうだね。不定積分の問題だ。これはテトラちゃんも解けるよね」

テトラ「え、あ、はい。たぶん……こうでしょうか」

$$ \begin{align*} \int (x + x + x) \,dx &= \int\! 3x \,dx \\ &= \frac{3}{2}x^2 && \text{(?)} \\ \end{align*} $$

「……」

テトラ「ですから、積分……不定積分の答えは$\frac{3}{2}x^2$ですね?」

「……積分定数は?」

テトラ「あ! すみません。そうでした。不定積分のときは積分定数がいるんでした。ということは、$$ \int (x + x + x) \,dx = \frac{3}{2}x^2 + C \qquad \text{($C$は積分定数)} $$ ですね」

「そうだね。《検算》もしようね」

テトラ「検算……ああ、微分するんでした!」

検算
$$ \begin{align*} \left(\frac{3}{2}x^2 + C\right)' &= \frac{3}{2}\cdot 2 \cdot x \\ &= 3x \\ \end{align*} $$

テトラ「はい、確かに$3x$つまり$x + x + x$にもどりました!」

「うん、いいね。積分の問題はめんどうな計算になることがあるから、早い段階でさっと《検算》をしておくといいんだよ。 計算の最終段階になってからまちがいに気付いたら悲惨だからね」

テトラ「なるほどです……ところで、どうして村木先生は$x + x + x$なんていう問題にしたんでしょう」

「最初から$3x$と書けばいいのに……ってこと?」

テトラ「はい、そうです。一目で$x + x + x = 3x$ってわかりますよね」

「うん、それはテトラちゃんが式に慣れているからだね。たとえば、中学一年生のころ、文字を使った式の変形に慣れていなかったら、 『一目で$x + x + x = 3x$』はわからないよね」

テトラ「あ、それはそうですけど」

「僕の想像だけど、村木先生は《和の積分》を見せてるんだと思うな」

テトラ「和の積分?」

「そう。《和の積分は、積分の和》だね」

和の積分は、積分の和

和の積分は、積分の和
$$ \int \left(\, f(x) + g(x) \,\right) \,dx = \int\!f(x) \,dx + \int\!g(x) \,dx $$

テトラ「……」

「何を言ってるか、わかるよね。二つの関数$f(x)$と$g(x)$とがあって……」

テトラ「はい、わかります。二つの関数の《和》は$f(x) + g(x)$です。それを積分したものが$\int \left(\,f(x) + g(x)\,\right) \,dx$ということですね。だからこれが《和の積分》」

「そうそう」

テトラ「それから、この等式の右辺は$\int f(x) \,dx$と$\int g(x) \,dx$という二つの積分を合わせた《積分の和》です」

「うん、そうだね。だから、この等式がいつも成り立つというのは《和の積分は、積分の和》と表現できることになる」

テトラ「この《和のナントカは、ナントカの和》ってよく出てきますね」

「そうだね。線型性ということ。線型性の一部だけど」

テトラ「線型性?」

「たとえば、微分もそうだったよね。《和の微分は、微分の和》だった。それから、確率のときに出てきた期待値も。《和の期待値は、期待値の和》」

テトラ「はいはい、そうでしたそうでした」

和の微分は、微分の和
$$ \left(\,f(x) + g(x) \,\right)' = f'(x) + g'(x) $$
和の期待値は、期待値の和
$$ E[X + Y] = E[X] + E[Y] $$

「そうだね」

テトラ「あの、つまらない質問かもしれませんけど……」

「なに? テトラちゃんがそういってつまらない質問だったこと、ないよね!」

テトラ「え、いえ、あのですね。たとえばこの《和のナントカは、ナントカの和》というのは、スローガンとしてはわかるんですが、どうしてこれが大事なんでしょうか」

「おお!」

テトラ「はい。今回も、村木先生のカードが$x + x + x$のように《和》を強調していました。どうしてなんでしょう」

「うん、そうだね。どうしてなのか……僕もうまくいえないけど、こうじゃないかな。《基本的なものは何か》に注目しているんだと思うよ」

テトラ「基本的なもの? 和が基本的なんでしょうか」

「というより、和を構成しているひとつひとつのものが基本的なのかな、と思ったんだ。$x + x + x$だと単純すぎてよくわからないけどね」

テトラ「?」

「たとえば、いろいろ数学のことを考えていて$f(x) + g(x)$の不定積分を求めることになったとするよね。そのとき、$f(x) + g(x)$が、《 $f(x)$と$g(x)$の和になってるぞ! 》と見抜くことができるなら、 $f(x)$と$g(x)$のそれぞれの不定積分を求めればいい、ということになるよね。 だから《和の積分は、積分の和》というのが大事になるんだよ」

テトラ「和を作る一つ一つを攻略すれば、全体も攻め落とすことができるということなんでしょうか……」

「攻略……まあ、そうだね。ほら、期待値のときもそうだったよね。確率変数が和の形になっていることを見抜いて、それぞれの期待値を計算する。 もっと積極的に、和の形になるように計算を進めるというのもよくある話。 微分も積分も期待値も、線型性を持っているものは、和を見抜いたり、和を作ったりすることで、 取り扱いが楽になるんだね」

テトラ「わかりました!」

和の問題

「そうだ、テトラちゃんはこの問題を解ける?」

問題
次の不定積分を求めよ。
$$ \int\, (x^2 + x + 1)(2x + 1) \,dx $$

テトラ「ええと……これはちょっと難しいです。どうするんでしょうか。何か公式が」

「うん、公式のようなものはあるんだけど《和の積分は、積分の和》をよく考えると、方針はすぐにわかる。つまり、《和》を作るということだね」

テトラ「和を作る……ああ、展開すればできるんですね! まず、$(x^2 + x + 1)(2x + 1)$を展開します」

テトラ「ですから、$\int (x^2 + x + 1)(2x + 1) \,dx$を求めるには、$\int (2x^3 + 3x^2 + 3x + 1) \,dx$を求めればよくて……これは和に分解すればできます!」

$$ \begin{align*} & \int (2x^3 + 3x^2 + 3x + 1) \,dx \\ &= \int 2x^3 \,dx + \int 3x^2 \,dx + \int 3x \,dx + \int 1 \,dx \\ &= \frac{2x^4}{4} + \frac{3x^3}{3} + \frac{3x^2}{2} + \text{あれれ?} \\ \end{align*} $$

テトラ「あれれ? $\int 1 \,dx$というのはどうすればいいんでしょう?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki 金曜日は「数学ガールの秘密ノート」の日。Web連載『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』第131回〜140回を無料公開します!公式 ( 約4年前 replyretweetfavorite

chibio6 指数関数をべき級数展開で表すと無限に続くので、微分をしても変わらない、ということなのですね。 4年以上前 replyretweetfavorite

aramisakihime 「テトラちゃんがそういってつまらない質問だったこと、ないよね!」に同意! >  4年以上前 replyretweetfavorite

wed7931 指数関数は関数たちの不動点。なるほど。こんなふうに考えたことはなかった。 4年以上前 replyretweetfavorite