ハイタッチではなく沈黙
長嶋茂雄が、打撃フォームが崩れてスランプに陥っている選手のもとへ出向き、ジェスチャーを交えながら「(腰を)シュッ、スパッ(と振りきる)」というような擬音語メインのアドバイスをすると、選手の調子が本当に上向いたらしい。上映中のPerfumeのドキュメンタリー映画『We Are Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』を観ていたら、セットリストや細かい演出の変更点を申し出る際、あ〜ちゃんが、お客さんのこみ上げてくる気持ちを「グーっと」とか、この演出によって「バーンっと」などと擬音語を多用しており、実際にそれが採用されていく様は長嶋茂雄的だった。
ライブが始まる前に彼女たちは3人で円陣を組みながら「がんばるぞ!」と4回繰り返す。繰り返した後でしばし沈黙して集中力を高める。ハイタッチではなく沈黙。五郎丸のルーティーンでいうところの浣腸ポーズが整った後の数秒。海外ツアーを追いかけた映画には、このルーティーンの映像が毎公演差し込まれ一定のペースで進行していく。アイドルの舞台裏を映画として伝える取り組みは、おおよそ〝過呼吸〟気味の編集で観ているこちらも疲弊するが、彼女たちの映画は、ちょっと退屈になるくらい、こちらに負荷がかからないようにできている。
平和を作るテクニック
ファンが作る「分かる人にだけ分かればいい」という縛りが強固な人たちではあるが、その強固を自覚した上で「みなさんもどうぞ」と外野に話しかけてほぐそうとする丁寧さが、当人たちから反復される。結果的に、外野では「とにかく最新鋭」であることと「とにかく人柄が良い」という2点が更新され続ける。この2点はタッグを組むような同質性を持たないはずなのだが、彼女たちの場合、咀嚼しやすい形でこの2点が頒布され続ける。没頭具合は問いません、という信号を内側から送り続けてきて、「ファンとファン以外」という区分けではなく、「ファンとファンになってもらいたい人たち」と区分けして、平和を作るテクニックが突出している。
この連載の初代担当編集は希代のaiko好きであり、自分の存在をaikoに気付いてもらうことを一義に何度もaiko関連ネタを取り上げさせるという職権乱用を繰り返してきたことで知られるが、最近、遂に自分の名前をGoogle検索するとサジェストで「aiko」が表示されるようになったという。aikoの名前を検索しても貴方の名前は出てこないのだから、この状態をストーキングと呼ぶのだが、ひとまずお喜びのご様子。若き新担当編集から「ライブ会場で先行販売していたので、もしよろしければお使いくださいませ」との丁寧な一筆を添えて、Perfumeの書籍『Fan Service[TV Bros.]』が一方的に送られてきたが、初代担当編集からの入れ知恵を感じる。とはいえ、この手の職権は乱用するべきだとも思うので、こちらは乱用を歓迎して素直に450ページの大著を通読。見計らったように「あ〜ちゃんは語られすぎているので、のっちを軸にどうでしょうか?」との提案メール。この手の職権は乱用するべきだと思うので、素直にのっちを軸に考えていく。
寺門ジモンを理解するまでに20年かかった
「理想の休日の過ごし方」を円グラフで記すと、0時から23時まで全ての時間をこまめに書き込むのがあ〜ちゃん。行動ごとにその時間を書き込むのがかしゆか。0、6、12、18だけを記して適当に線を引っぱるのがのっちである。